THE pinkhip WORLD    「中小建設業情報化講座」 第8回 |目次へ戻る 著作権| 

第8回 中小建設業情報化の本質


前回、仮想建設会社A社の情報化の取組みの準備段階までを以下の表にまとめてみました。
■A社の情報化への取組み
全社共通取組み事項 総務部取組み事項 土木部、建築部取組み事項
目標:
社内の標準インフラとしてのイントララネットの構築
目標:
・受発注システムの構築、情報提供サービス部門としての組織変革
目標:
・CADの導入と現場担当者レベルでのCADの利用
・デジタルカメラによる工事写真管理
準備段階 情報化プロジェクトチームの発足

インフラの整備計画
具体案:
・拡張性のあるインフラの整備(現場−本社間のWAN接続を考慮)
・当初の利用範囲
・利用者教育の問題
・予算の確保
具体案:
・社内の標準インフラとしてのイントラネットでの情報展開を考慮したアプリケーション選択
・人員の問題(不足なのか過剰なのか)
・利用者教育の問題
・予算の確保
具体案:
・社内の標準インフラとしてのイントラネットでの情報展開を考慮したアプリケーション選択
・人員の問題(専任のオペレーターが居る場合、その処置)
・利用者教育の問題
・予算の確保

ここでは、全社共通の取組み事項として社内の標準インフラとしてのイントラネットの構築を揚げていることを理解してほしいと思います。
今回は、中小建設業になぜイントラネットが必要なのかの話です。

■建設業の特徴=現場の存在
建設業の情報化を理解するには、まず、建設業には現場が存在するものだとの理解をしっかり持つ必要があります。
当り前の事だと思われるでしょうが、社内の情報化の取組みの際に、この事をすっかり忘れてしまう(もしかしたら最初から知らない)ベンダーさんや情報化担当者の方が沢山いらっしゃるのです。
建設会社にとって、現場こそが本業の要であり、利益を生み出す源であり、ノウハウの宝庫であるとの理解を再確認する必要があります。その認識の下でしか、建設業における効率的な、機能する情報化は達成し得ません。
すなわち、建設業の情報化とは、現場の情報化無くしては語れないのです。
そして、私は、中小建設業の現場の情報化を支える社内の標準インフラこそイントラネットであるとの立場です。
そして、イントラネットは、中小建設業である故に、その効果は大きいと考えています。

■建設現場はノウハウの宝庫である
皆さんの会社の現場担当者の仕事を思い起こしてください。現場担当の方は、ご自分の業務内容をメモに書き出してみるのもいいでしょう。実に様々な業務がそこで行われていることに気付かれるはずです。
それは、あたかも一個の独立した会社のようにも見えることと思います。
しかし、その現場で行われる様々な業務のノウハウの多くは、現場担当者個人レベルの頭の中に隠され、共有されていないことがほとんどのはずです。
「その件についてだったら○○さんに聞けばわかる」という個人に帰属したノウハウに頼った業務が、日常的に行われているはずです。そしてそれが会社全体から見れば、如何に非効率的な方法であるのかは、ここで説明するまでも無いと思います。
社内情報化の目的の一つは、その社員の頭の中に隠された業務ノウハウを引きずり出し、選別し、洗練し、会社の標準業務プロセスとして昇華させること、すなわち業務プロセスの資産化を行うことです。
これらの事は、なにも建設業に限ったことではありません。情報化やCALSにおいては一般的に行われていることなのです。
現場には、会社の資産となるべきノウハウが隠れているはずです。その宝の山から、宝を吸い上げる仕組みがイントラネットです。

■情報化の対象は現場志向で
仮想建設会社A社クラスの規模の建設業者の場合でも、多いときであれば10〜20の現場事務所が存在しているはずです。
そうした場合、本社事務所で常時仕事をしている社員は、全体の2割にも満たないはずです。
しかし、ほとんどの建設業の情報化の取組みは、その投資対象を本社事務所に向けて行われることが多いのです。建設コンサルタント業であればそれでも良いかもしれませんが、私が情報化の対象として話している、施工を中心に行う中小建設業の場合であれば、その2割のために情報化投資をするのか、それとも外で実際に利益を生み出している8割の社員のために情報化投資をするのか、情報化はどちらを向いて行えば良いのかを良く考える必要があるかと思います。

実際、多くの場合このことが理解されていません。パソコンが導入されているといっても、日中は誰もいない部屋でオブジェのごとくパソコンが鎮座している場面に私は何度となく出会っています。
一方現場にはパソコンの影も形も無い、あったとしても現場担当者が自腹で購入したマシンがぽつりと1台。こんな風景をよく目にします。しかし、そこには本社事務所よりも沢山の社員が働いているのです。沢山の資産化すべき業務プロセスが存在しているのにも関わらずです。
建設業の情報化とは、常に現場を向いて行われるべきものだと私は考えています。

■現場は遠いのである
建設業の情報化は、現場の存在故に、他の産業とは違ったインフラ整備が必要となります。
すなわち現場は、少なくとも本社からLANケーブルで接続できる程近いところには存在しないということです。
ここで必要なことは、なるべく安い費用で、現場と本社事務所があたかもLANケーブルで結ばれているように有機的に結合できる通信インフラを作らなくてはならないということです。
多くの現場では、まず電話回線の確保は出来ているはずですから、本社との通信はリモートアクセスが主体となるでしょう。一般公衆回線やISDNを使った通信でも、最速で64kbps、一般には28.8kbps程度の低速な通信速度で使えるネットワークを構築しなくてはなりません。
その低速回線で使えるネットワーク、それがイントラネットです。
ご存知のように、イントラネットは、インターネットの技術を社内のパソコンネットワークに応用したものです。皆さんが公衆回線を使ってダイアルアップ接続でインターネットを利用しているスピードでの情報のやり取りが可能なのです。

■建設CALS/ECに対応した情報リテラシーの向上
イントラネットの場合、クライアントには汎用的なWebブラウザを利用します。ブラウザをクライアントで使うことの利点は、その教育の容易さと費用の安さです。
専用クライアントをもつ、いわゆるグループウェアでは、そのクライアント操作の習得、汎用性の無さ、遅い通信回線での使用はほとんど無理であることを考えると、現場の多い(リモートアクセスの多い)建設業では、Webブラウザクライアントのイントラネットの方がより実状にあっていると考えられます。
また、イントラネットではWebブラウザ同様、当然のように社内、社外に向けて電子メールも使われることとなるでしょうから、イントラネットを使った社内ネットワークを使いこなせるスキルこそ、建設CALS/ECへ対応した情報化=全社員レベルでの情報リテラシイの向上であることの理解は容易だと思います。

・建設業の特色である現場の存在。
・本社と現場、現場と現場のコミュニケーションインフラとしてのイントラネット。
・イントラネットの活用による全社員レベルでの情報リテラシイの向上。
これらの事をふまえ、建設CALS/ECに対応した中小建設業の情報化の第一段階とは、社内標準情報インフラとしてのイントラネットの構築であると私は考えています。
この情報インフラの上に、様々な業務処理アプリケーションが有機的に組み合わされていくところに、今後の中小建設業の情報化の進むべき道があると思うのです。
ベンダー主導のインテグレーションしない情報化(情報化講座第6回参照)は、社内の標準情報インフラの確立がなされていないことにも、その原因の一端があるのではないでしょうか。

以下 次回へ。

Monday, 06-Jul-98 03:40:57



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