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「日本経済再生への戦略」(経済戦略会議中間取りまとめ)を読む(2)
第5章1-(3)民間ダイナミズムの積極的導入


平成10年12月23日付けで、首相官邸のホームページに掲示されている「日本経済再生への戦略」(経済戦略会議中間取りまとめ) URL http://www.kantei.go.jp/jp/senryaku/981224interim.htmlは、文字通り、日本が進むべく道を提示していると言えるでしょう。ここで取り上げられているのは、来るべき21世紀に向けた行政のマネジメント(経営)指針でありますが、一般企業(建設企業)にとっても、現在の経済状況の認識とこれからの自らのマネジメント指針として十分に有効なものだと考えます。
この特別講座は、この「日本経済再生への戦略」(経済戦略会議中間取りまとめ)から、我々建設業にとって関連のあると思われるところを取り上げ、我々自身の問題(進むべき道)として考えてみようというものです。

本講座をお読みになる前に、是非↑のURLに掲示されている「日本経済再生への戦略」(経済戦略会議中間取りまとめ)原文をお読みくださることをお勧めいたします。

今回はシリーズ第2回「第5章1-(3)民間ダイナミズムの積極的導入」を読んでみることにしましょう。

まずは引用です。

(3)民間ダイナミズムの積極的導入
 21世紀型インフラ整備では、民間活力を最大限活用するために、インフラ整備と規制や基準の大胆な変更が必要である。情報分野では、通信分野への新規参入を促進するための規制緩和と光ファイバー整備を組み合わせ、環境では、環境ルールの設定と下水道整備、リサイクル施設と廃棄物処分場建設への強力なインセンティブが必要である。
 特に、下水道整備の遅れは顕著であり、また都市圏ではゴミ処理施設の老朽化も進んでいる。したがって、民間投資誘発のための呼び水となる規制緩和、官民ジョイントマネジメントの新たな枠組みを構築する。
 公共投資については、コスト縮減を図るために、費用便益分析を活用すると同時に、地域経済への影響や環境への影響を把握するための評価機関を設置し、NPOなどの団体も活用する。また、運営費用の透明性を高めるために民間の会計方法、技術や資源を積極的に導入する必要がある。
 民間の技術、経営力を積極的に導入するために、発注側の体制の不備を改善し、また、価格中心の発注体制から技術・経営評価に重点を置いた入札方式に転換する。広域ブロック単位等で技術・経営評価機関を設置し、事前の需要予測及びアンケート調査などの先行調査をスピーディに行えるようにする。PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)導入のための環境整備、法整備も緊急に進める。

ここ(↑)には、建設CALS/ECが実現されるに当たってのマネジメント的な部分が凝縮されています。
「民間活力を最大限に活用するために」とありますが、まず理解できることは、この視点は民間の能力・技術力を「買う」という行政側の視点であることです。
既に、行政側には産業界を指導しリードするだけの技術的な優位性は無くなってしまっているは明らかかもしれません。特に公共事業を中心とした建設業の場合、発注者としての行政側が何から何までお膳立てした上で、行政が言うとおりにモノを作るという従来のやり方は既に限界を迎えていると言えるのだろうと思います。

以下、「具体的政策」をCALS的な視点から個別に見ていくことにしましょう。

○技術評価、総合評価方式を導入するために、会計法に基づく大蔵大臣協議を簡素化し、また、地方自治法に基づく入札制度を改善する。

建設省がCALSを実施すると公表したのは、世界でも日本が始めてのことです。建設省のWebサイトにおいて、建設CALS/ECの実施が世界に向けて公表されているということの持つ意味は大きいのだろうと考えます。
建設CALSについては、日本に続いて、1996年11月に、韓国の建設交通部が建設技術管理法第15条2項を新設し、CALSの導入を法制化しました。
建設CALSにおいて、いいだしっぺの日本が世界のリーダーシップをとるためには、建設省の建設CALS/ECがグローバルスタンダードとして、その策定した標準を世界中で使ってもらわなくてはなりません。そのためには法整備は必然であり、グローバルでオープンな入札制度の構築は、世界標準として世界中で採用されるように最優先に取り組まれるべきものと言えると思います。

また、このことにおいては、発注者側の技術レベルの評価という視点も重要です。
現在の入札契約方式は、会計法若しくは地方自治法に基づく一つの手法にしかすぎません。公共事業の目的物と発注方法によっては発注者に求められる水準は違ってきて当然でしょうし、発注者側の技術水準が明確にされるシステムも必要とされるべきものと考えます。

○入札方式の多様化のため、発注者側体制を整備する。広域ブロック単位等での技術・経営評価機関を設置する。

多くの問題は、発注者側の体制にあると考えられます。これは、21世紀型のの公共事業として、「より良いものをより安く」追求型と、「中小企業の育成や地元産業の雇用吸収、地域の経済振興」優先型との、どちらを錦の御旗、大義名分にするかの綱引きです。

東京大学工学部の國島教授は、公共工事は「より良いものをより安く」追求型)と、「中小企業の育成や地元産業の雇用吸収、地域の経済振興」優先型とを明確に区別する必要があるだろうとし、それが21世紀における最重要の発注者責任としています(日経コンストラクション1998・12-11P75)。
建設企業を明確に評価できる体制整備は、建設CALS/ECの実現においても当然に必要であると思われます。

建設CALS/ECにおいては、基本的には「より良いものをより安く」追求型に立脚した「買う」視点によって公共工事の発注は行われます。しかし、現状の地方自治体に見られる発注者側の視点は、「中小企業の育成や地元産業の雇用吸収、地域の経済振興」優先を御旗とした、きわめてネポティズム的な発注体制が持続されつづけています。これが、建設CALS/EC成功のための最大の障害と私は指摘していますが、故に、広域ブロック単位という考え方が実現され、一部地域での閉じた入札制度が見直される方向性は、建設CALS/EC実現の視点からも当然のことといえます。

そのための「技術・経営評価機関」(システム)の確立は、現時点ではISO9000’sやISO14000'がグローバルな地位を持とうとしていますが、建設CALS/ECが世界中の建設CALSのスタンダードとなりうるためにも、グローバル・スタンダードとしての「技術・経営評価機関」を、建設CALS/ECが提示できるか(それともISOを使うのか、ISOを含有した新しい基準を提示できるのか)は、とても重要なことだと考えるのです。
これは、「発注者側体制を整備する」という文脈において、発注者にも当然に機能されるべきものでなくてはなりません。

○技術の適切な評価を行うVE(バリュー・エンジニアリング)、設計施工技術を一体的に活用するDB(デザイン・ビルド)を導入する。

さて、VEとDBの登場ですが、これについては、多くを語る必要は無いでしょう。行政(発注者)側のマネジメントとしての「民間ダイナミズムの積極的導入」においては、きわめてスタンダードなツールであり、個々の建設企業におきては、この取り組みなしには、今後の建設CALS/ECシステム下での公共事業受注は難しいというのが僕の持論でもあります。

○民間主導による活発な公共投資活動を促進するため、積極的にPFIの導入促進を図る。
○官側のリスク負担による従来の安易な第三セクター経営が破綻を招いたことを踏まえ、今後のPFIでは、官と民とのリスク分担を明確にした契約方式による民主導型の事業に限定して推進する。

問題のPFI(Private Finance Initiative)です(笑)。
PFI推進法案は継続審議で未成立ですし、そもそも第3セクターとどう違うのか?、僕自身がPFIを良く理解できていません。^^;
PFI発祥の地、英国での政府主導のPFIの存在理由は、VfM(バリュー・フォー・マネー)の向上につきるといわれています。
つまり、「政府の予算を削減しても、国民へのサービスの質は落とさない」、そのようなプロジェクトへの適応が目的ということです。
この文脈においては、DoDのCALSが日本において公共事業へ適応されてきた目的、つまり建設CALS/ECが生まれ得た理由(この部分については、World PCフォーラムでの僕のプレゼンピッチを参照してください。)と違いはありません。

言うなれば、政府主導で行われるPFIもCALSも、財政難状態時の行政側のマネジメントツールとして脚光を浴びてきたという経緯が理解できるかと思います。そして英国におけるPFI、DoDにおけるCALSはそれなりの成果をあげてきています。

それが、日本において導入されよとする時、「日本の制度にあったPFIやCALS」という言い方をされることが多いのです。しかし、問題はそもそも「制度(システム)」にあることを見過ごしてはならないと思います。

英国におけるPFIは、サッチャー政権下での行政改革における行政の民営化、アウトソーシング化から始まっています。
なににつけてもスタイルから入る(格好だけを真似するということですね)手法というのを、日本(自治体も含めて)の政策の場合見かけがちなのですが、「デジタル革命」に対する有効な施策とは、事例を集めてそのスタイルを学ぶことでは無いのは事実です。中身を変えずに、入れ物だけを変えてもうまく行くはずも無いのも事実でしょう。

このことは、自社の情報化・CALS化への取り組みにおいても陥りやすい罠でもあります。右肩上がりのゆっくりとした変化に適している従来の「やりかた」で成功してきた多くの建設企業には、現状のルールや組織を維持するために「情報技術」を使おうとする面も見られます。
日々の激しい変化へ対応すべく、広く外部資源を利用し、自らの組織内の世界最強の部分に自らの経営資源を集中しようというオープンなビジネスモデルこそ、PFI、CALSを運用する組織の目指すところなのでしょうが、その実現には「制度(システム)」の見直し、変革は必然である、そのような認識が組織のトップには必要なのだと思います。

PFIの理解については、僕自身の理解が非常に浅いので、僕が参考とした物を列挙しておきます。
■日経コンストラクションの1998/12/11号「PFI-離陸への足がかり」はお勧めです。

■「PFIをとらえる5つの視点」
URL http://nriwww2.nri.co.jp:8080/nri/free/nrijouhou/data/shakai/98071/sh9807100.html

■「Private Finance Initiative:日本への導入に向けての視点」
URL http://www.fri.co.jp/er/review/review006/review3.html

■建設省「日本版PFIのガイドライン」について
URL http://www.moc.go.jp/policy/pfi/c_image.htm

○公共施設の目的外使用、より有効な目的への利用を促進するため、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律等を弾力的に見直す。

建設CALS/ECの話がメインのはずのこのサイトなのですが、建設CALS/ECを突き詰めていくと、結局行政の問題に行きついてしまうのです。
社会が、情報社会(「情報社会型の工業社会」と言われる方もおりますが大した問題ではありません)に向かって進んでいるのは紛れも無い事実でしょう。政府も現在が「デジタル革命」の時期であることを認識しています。
しかし、僕達は、その「デジタル革命」と「来る情報社会」に対して、いまだにこれといった希望を持てないでいます。それどころか、将来に対する閉塞感はますます強まっていると感じています。

建設CALS/ECは、そんな時代の一筋の希望の光なのだと僕は思っています。

1999/01/08 (金)


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