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建設CALS/EC推進のために(概論) 2000/06/22 改訂


区切りの年としての2000年を前にし、建設CALS/ECを総論的に総括し、これからの建設CALS/ECの推進に対して、なにがしかの提言が出ても良いのではないかと思うのですが、どこを探してもそんなものは無いようなので、とりあえず、自分で書くことにしました。

といっても、その中身は、平成11年7月27日付けで、(社)経済団体連合会のホームページに掲示されている「電子商取引に関する提言」をベースにしたものであり、故に、ここにおける私の提言というのもは、「電子商取引に関する提言」を超えるものではありませんし、むしろ、「電子商取引に関する提言」を、建設CALS/EC向けに改竄したもの程度に受け止めていただいて結構です。

ですので、私の提言を読む前(後からでも結構ですが)に、「電子商取引に関する提言」は是非に読まれることをお勧めいたします。つまり、私の本当の狙いはそこにあります。


1・「電子政府の実現」

『政府(並びに地方公共団体)の果たすべき最も重要な役割は、企業や国民の負担を軽減しつつ、サービスの質的向上を図るため、自ら電子商取引に取り組み、簡素で効率的な電子政府を確立することである。』

というように、まず、行政の電子化=電子政府の実現における視点は、その対象を、『政府並びに地方公共団体』としているとこに注目すべきです。これは行政手続きの効率化(デジタル化)の実現をを考えれば、当然のことといえます。

これに鑑み、現行の建設CALS/ECを見ると、発注者としての地方公共団体(地方自治体)への視点、そして地方公共団体を主要受注先とする中小建設企業への視点、方策は先送りされており、極めてその視点が薄いことが指摘できます。

政策としての建設CALS/ECが持つ閉塞感を、私はことあるごとに指摘していますが、建設CALS/ECが政策として失敗することがあるとすれば、その大きな要因は、この地方公共団体と中小建設企業への視点の欠如であるだろうと考えています。

それは、
『また、日本最大の電子商取引の潜在的ユーザーでもある政府や地方公共団体が、率先して電子商取引に取り組むことで、公的部門と民間部門のインターフェイスの情報化が進み、民間部門の情報化投資の促進と、国民の情報リテラシー向上も期待できる。』

『公共投資、公共調達については手続の不透明さや高コスト体質に対する批判の多いところであり、電子商取引を導入することにはこれらの批判に応えるという意義もある。』

という指摘の意味するとこでもあり、すなわち、

『国民に情報通信技術を使いこなし、情報を利活用する情報リテラシーが不足していては、電子商取引の普及は期待できない。国を挙げての情報リテラシーの底上げを図ることが重要な課題である。』

とのの指摘はまさに正論であり、建設業界における情報リテラシー底上げのフックとなりえるのは、積極的な、地方公共団体における建設CALS/ECの実現を含めた政策にしかないというのが今の私の主張です。

建設CALS/ECは、政府(つまり行政)自らが、デジタル革命による変化を受け入れること、つまり、電子商取引の一方策として特徴的なのであり、故に、その上位概念は「電子政府の実現」にあることは明白です。つまり、

『政府や地方公共団体においても、コスト・ベネフィットを勘案しつつ、計画的に情報化投資を行ない、定期的にその評価や見直しを行なうことが求められる。』

『また、簡素で効率的な電子政府の実現に当たっては、行政改革とセットで進めることが不可欠であり、業務プロセスや行政組織の見直し、人員の再配置等を併せて行なうことが不可欠である。』

『政府自らが電子商取引を進めるためには、印紙の貼付というプロセスを電子化する必要があり、手数料前納主義を見直す必要がある。』

『さらに、公的サービスと言えども、原則として民間に委ねられる部分は民間が担うべきであり、民間へのアウトソーシングを最大限活用すべきである。例えば、公的サービスで利用される認証システムの運用、各種データベースの整備や更新等が挙げられる。』

というように、「政府による公共事業の電子商取引の実現=建設CALS/EC」も、一般企業の情報化がBPRと密接な関係を持つように、政府、地方公共団体自らの行政改革を前提とした取組みであることを再認識する必要があるでしょう。

それは、発注者側が自らの変革を率先して受け入れないことには、受注者側が変化を受け入れるはずもないということですし、建設CALS/ECが、今後、国民の支持を受けながら推進されるためにも、地方公共団体を含めたデジタル政府の実現と、自らのBPR的な視点を、建設CALS/ECに対して持つ必要があるでしょう。


2・「政府による戦略的・集中的な環境整備〜プログラムの策定と実施〜」
公共事業をターゲットとする、政府及び地方公共団体による電子商取引実現としての性格を持つ、建設CALS/ECの推進においては、政府、地方公共団体の役割は(自らの変革作業とい意味において)極めて重要です。

それは、如何に、行政側の効率を追求しながら、受注者としての建設企業が、創意工夫を凝らして自由に競争できるような環境整備を行えるかということでもありますが、それには、建設CALS/ECを、公共事業という枠内に捕らわれず、もう一度、広義の電子商取引概念において捕らえる必要があるのだと考えます。

すなわち、

『民間分野の電子商取引の推進は基本的には企業の自主的取組みに委ねるべきであり、国の過度な規制や介入は、電子商取引に取り組もうとする個別企業の生産性向上努力や創意工夫のインセンティブを弱め、技術革新が阻害されたり、新規参入や事業拡大の意欲を損なうなど弊害が多い。政府は、自ら電子商取引に取り組むとともに、企業が創意工夫を凝らして自由に競争できるような環境整備を行なうべきである。』

ということでもあります。

そして、政府は、目指すべき経済社会を実現するための電子商取引の役割を正しく国民に明示し、その明示された電子商取引の一環としての、建設CALS/ECの再位置付けを行う必要があると考えます。

それは、

『世界的に見て立ち遅れている電子商取引をわが国全体として普及・促進させていくためには、目指すべき経済社会を実現するための電子商取引の役割を明示するとともに、向こう2年間で、短期間で効果が目にみえる施策を戦略的・集中的に実施していくことが求められる。』

『そこで、必要な制度、政策の整備を省庁横断的かつ集中的に行なうためのプログラムを早急に策定すべきである。』
ということなのですが、これは、建設CALS/ECに、もう一度かつての輝きを取り戻すためにも、政府、地方公共団体を問わず、最優先で解決されるべき問題だと感じています。

電子政府の実現、そして、建設CALS/ECの実現の障害の一つは、旧来然とした縦割りの行政システムに根ざす、行政側のセクショナリズムやモラルハザードであり、それゆえの統一感の感じられない政策は、デジタル革命に対して、真摯に取組みを行っている企業、国民の、行政に対する不信感を増大させるだけでしかありません。

故に、建設省が策定した建設CALS/ECアクションプログラムも、上記の視点で再考される必要があるでしょう。それには、地方公共団体の自主性を尊重しながらも、地方公共団体における建設CALS/ECアクションプラグラムガイドラインのようなものを提示する必要があるのかとも考えますし、片務的な偏向を防ぐためにも、建設CALS/ECは、積極的に地方公共団体及び中小建設企業にも門戸を開き、トップダウンとボトムアップの要素を盛り込んだ、よりダイナミックな行動指針であるという視点が必要だと考えます。



3・「建設CALS/EC推進上の課題」

建設CALS/ECの課題は、既に先に示したところでもありますが、建設CALS/ECの持つ閉塞感の根源は、建設CALS/ECという政策が、日本の公共事業システム変革のリーダーシップを取れない、若しくはリーダーシップを取る資質が欠如していることではないでしょうか。

それは、公共事業の主体を、既存の枠内(公共事業複合体:官、民、政)でとらえつづけることの限界でもあり、すなわち、既存の建設CALS/EC推進施策が持つ、受注者を、既存の大手建設企業を中心とした建設業ヒエラルキーの中だけで語ろうとする閉塞感でもあります。

『電子商取引においては、物理的な参入障壁が低くなるため、企業規模よりも、機動的な意思決定やサービスのきめ細かさ、独自性といったことが重視されるようになる。』

という視点は無視できないものだと考えます。つまり、これは、建設CALS/ECにおける公共事業市場を、既存の公共事業複合体以外にも開放する可能性、若しくは、建設CALS/ECは、公共事業複合体の自然消滅的解消を導く施策だとの視点を明確にすべきだということでもあります。

建設CALS/ECは、デジタル革命を勝ち抜き、これからの建設業界で活躍しようとする、多くの技術者や経営者にとっての、希望の星である必要があるということです。



4・「情報リテラシーの向上」

『国民に情報通信技術を使いこなし、情報を利活用する情報リテラシーが不足していては、電子商取引の普及は期待できない。国を挙げての情報リテラシーの底上げを図ることが重要な課題である。』

との指摘を待つまでもなく、現在の建設CALS/EC推進施策における欠乏視点とは、これ、すなわち、「情報リテラシーの向上」に対する施策です。

電子政府実現の一環としての建設CALS/ECの実現は、調達側(つまり行政)と、全ての受注側企業において、建設CALS/ECを実現できる「情報リテラシー」の達成(それも個人レベルでの)を、その実現前提条件としていますが、現行の建設CALS/ECアクションプログラムは、この部分に対する施策を語るすべを持ちません。この視点の欠如は、地方公共団体におけるCALSの実現においては、より顕著な問題となって表面化することは明白なことです。

『日本最大の電子商取引の潜在的ユーザーでもある政府や地方公共団体が、率先して電子商取引に取り組むことで、公的部門と民間部門のインターフェイスの情報化が進み、民間部門の情報化投資の促進と、国民の情報リテラシー向上も期待できる。』

とある通り、地方公共団体発注の公共事業を、前倒し的に含めた建設CALS/ECの取組みと、アクションプログラムの設定が必要とされるところでしょう。問題は、現行の建設CALS/ECには、地方公共団体が行うべき建設CALS/EC施策への指導力が欠如している点だと指摘しておきます。建設省・大手ゼネコン主体の建設CALS/ECは、その懐の深さを試されることになるでしょう。



5・「企業側の問題」

一方、受注者側においては、「建設CALS/EC対応」という、情報化トリガーが目の前にあるのもかかわらず、いまだに情報化意欲を持てない企業が多く見受けられることは嘆かわしい限りです。

特に地方の中小建設企業においてこれは顕著な現象ですが、これは、自治体ベースの建設CALS/ECが、本格的な取組みを見ない限り、いたしかたないところなのでしょうが、唯一いえることは「始まってからでは遅い」ということです。

企業における情報化戦略においては、

『電子商取引によって企業経営面で大きな効果をあげるためには、企業組織の再編、業務の変更、人員再配置が必要である。また、既存の取引チャネルとの競合等の痛みが伴うため、企業が電子商取引を推進するには、企業経営者の決断が不可欠になる。今後、経営者自身が電子商取引の意義と効果を正しく認識し、リーダーシップを発揮し、組織改革、業務改革も含めてトップダウンで推進していくことが何よりも重要である。』

というとおり、極めて経営者の役割が重要であり、情報化は、常に経営の問題として存在します。

また、

『従来より、EDI普及の際の問題点として、メーカーごとに異なる端末を導入しなければならない多端末現象や回線コストの高さ等が指摘されていたが、インターネットをはじめとするオープンなネットワークを共通で利用することによって、中小企業が安価なコストで電子商取引を導入することが可能になる。』

『今後、EDIやSCM、CALS等の取組みを本格化させるため、中小企業をはじめとする利用者のコストや利便性を重視し、グループや業界の枠組みを越えた標準化や相互運用性のための取組みを加速することが不可欠である。』

の指摘は、現況の建設業情報化における大問題点でもあります。これは、言い換えれば、建設CALS/ECのリーダーシップ欠如故の問題だともいえます。

広く建設業界以外を見渡せば、特定企業間やグループ内でのEDIでのプロトコルの違いによる、(特に受注者側の)非効率への反省の視点がCALS、EDIであるといえますが、翻って、昨今建設業界で行われ始めているそれは、企業間の整合性を無視した、極めて独善的な閉じたプロトコルによるEDIの実現として具現化(多端末現象)されてきています。この弊害は、特にサブコンにおいて現実化している問題です。

このような弊害が、建設CALS/ECの実現にとって今後大きな障害になるであろうことは、既に他産業の過去の事例がが示してきた事実です。にもかかわらず、大手ゼネコンを中心に、このような閉鎖的姿勢が、この時期に現象として現れて来るところに、建設CALS/Eの指導力のなさや、民間とのコラボレーション姿勢の欠如を強く感じることができます。

何故のCALSなのかを、もう一度原点に返って考え直す必要があるのではないでしょうか。

1999/12/23
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