「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson13 市場の相互作用(1)―社会的交換から経済的交換を位置づける

社会的交換から経済的交換を位置づける

さて、ここからは、金魚論から展開した「中小建設業のIT化=市場×IT化」の「市場」という部分の考察を始めますが、その市場についての概観は、すでに今までの考察の中である程度は略画的に描いてきています。

お気づきの方も多いと思いますが、本書の市場を考察するアプローチは、皆さんにとっては、少々風変わりなものであるはずです。それは「社会的交換」をベースに産業化を再構成する考え方をしているからなのですが(これは村上泰輔が「開発主義」の考察で行った方法を援用しています)、この特徴は「マーケット・メカニズム」にだけ依存しているとされる交換行為(つまり売買)を、「経済的交換」として「社会的交換」の特殊ケースとして位置づけているところにあります。つまり経済的交換も、結局は人と人との相互作用であると捉え、私たちの日々の生活から切り離されたものではなく、社会的交換を下敷きにしておこなわれているもの、と考えることを意味しています。このようなアプローチの特徴は、今までの本書の議論ではいたるところにみることができたはずです。

まず本書では、中小建設業を開発主義が生み出した政策的な産業だ、といういい方をしていますが、開発主義理論の基礎を成しているのが、この「社会的交換」の視座から産業化を再構成するやり方です。また、人間をミーム・ヴィークル(ミームの乗り物)と想定していることは、人間が相互作用の生き物、つまり「社会的交換」を前提とした存在であることを意味しています。それは、売り手と買い手のミームでみたように、市場を形成しているミームには、売り手が持っている「技術のミーム」と買い手が持っている「消費のミーム」のふたつのミームがあり、〈市場とは「技術のミーム」と「消費のミーム」の相互作用の場〉だということ、売るということは〈自社の技術のミームを買っていただいている〉というように、すでに市場をミーム交換の場として、人と人との相互作用の場、つまり社会的交換の場として概観しているということです。

さらに本書は、中小建設業を取り巻く「公共工事という問題」の解決方法を、インターネット社会での「もうひとつ」の問題解決方法である「コミュニティ・ソリューション」の効用の文脈で考察しようとしています。ここでも、すでに「ソーシャル・キャピタル」という概念を持ち出しているように、さらにはアローの『信頼は社会システムの重要な潤滑財である』という言葉を援用しているように、経済的交換が社会的交換を下敷きにしていることに着目しています。

つまり、本書における議論は、経済的交換が単なる「マーケット・メカニズム」だけではなく、社会的交換の概念の上に存在していることをすでに想定しておこなっている、ということです。

ここでいう社会的交換とは、ブラウがいうような「何らかの将来のお返しの一般的期待はあるけれども、その正確な性質はあらかじめ確定的に明記されない」というような交換と理解すればよいでしょう(P・M・ブラウ,間場ほか訳,『交換と権力』,,1974,新曜社,第4章)。一口に経済的交換といっても、単に価格と量の情報が大量にやりとりされるだけでは、人を取引で束ねる力が特に強くなるわけではありません。このことでビジネスはいつも悩ましいのです。つまり、安くて大盛ならば絶対に売れるのか、といえば、どうやらそうでもない、ということです。そこで、人を束ねる力が強い交換とはなんだろう、と考えた時、社会的交換のメカニズムがクローズアップされるのです。たとえば、社会的交換の色彩が強い関係として村上はこんな例を挙げています。

日本的経営、下請関係、産業政策、サービス売買など。(村上,1994,p139)

これらの例は、日本的な経営に見られる制度・慣行ということで、昨今の「G軸」(グローバル指向)上にビジネスは展開されるべきだ、という議論では批判の対象とされているものです。しかし、「G軸」に展開されるものがすべて正しいのかといえば、インターネット社会はそんなにキャパシティの小さなものでもありません。特に、

〈中小建設業は第Ⅱ象限の「コミュニティ指向」でしか生き残れない〉

という原理は、「中小建設という問題」の解決方法のヒントが、G軸などではなく、むしろ、インターネット社会のもうひとつの側面であるC軸(コミュニティ指向)という社会的交換の色彩が強い関係側にあることを教えてくれているのです。そして、この社会的交換では、「信頼」といういうなものをベースとした、「なんだかよくわからないけれども人を束ねるような力を持った情報」が、円滑な交換を仲介していると考えるのです。それらを「ソーシャル・キャピタル」と呼べれば、「ソーシャル・キャピタルという、ミームによって運ばれる感動と人間性に対する信頼感の伝承がコミュニティ・ソリューションの秘密」だという金子の言葉も理解できるかと思います。

つまり、「経済的交換を社会的交換の特殊ケースとする」という考察方法は、市場を人の面から束ねる力は、私たちが単純に売買における情報とはそれだけだと思い込んでいる「量と価格」の情報よりも、何かしらの「信頼」をベースとした社会的交換に流れる情報に比重がある、もしくは社会的交換をベースとして経済的交換も行われている、と考えることを意味しています。

Written by 桃知利男のプロフィール : 2007年12月18日 17:55: Newer : Older


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