「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson14 信頼ってなに?(4)―選好基準は複雑である

選好基準は複雑である

さて、これからのはなしは、私と親交のある電気工事業の社長さんのはなしです。この会社は電気工事業が本業ですが、付帯的に電化製品の物販も行ってきました。ご多分に漏れず、最近は量販店がたくさん近所に進出してきて物販部門の売り上げはじり貧状態、いよいよこの物販部門の存続打ち切りを本気で考えざるをえない状況になってしまったわけですが、このはなしを社長からうかがっている時に、この物販部門で電化製品を購入される方々にみられるある行動についての興味深いはなしを聞くことができました。

例えば、冷蔵庫が欲しい、というお客様がいるとします。するとこのお客様は、まず量販店で現物をみて価格を調査するのです。でもそこでは買わなのです(ここが大事)。量販店ではお客様はほしい冷蔵庫に関する情報を集めるだけです。そこには当然価格の情報が存在します。例えば量販店ではお客様のほしい冷蔵庫は十三万円で売られていたとします。でも買わないのです。そして、このお客様は電気工事店の社長に電はなしをするわけです。「量販店でほしい冷蔵庫は十三万円だったのだけれども、○○電気さん、あなたのところはそれじゃ無理だろうから十五万円で持ってきてくれますか」。

この場合、この電気工事店から冷蔵庫を購入するという選好基準は、「第一種の情報」としての「価格と量の情報」だけではないことは簡単に理解できるでしょう。このことは、当面の価格を重視するよりも、少々高い代価を支払ってでも、お客様がこの電気工事店に対して持っている、「なんだかよくわからないけれども人を束ねる力を持った情報」という部分を重視したということです。

でも、これを取引費用と機会費用だけで説明しきるのも難しいことです。この場合、取引費用は、量販店で購入した方が、価格調査をした費用を含めても直接電気工事店で購入を決めるよりは安くすんだとしましょう(もしかしたら、直接電気工事店に電はなしをしたら、十二万八千円だったり、顧客の提示した金額よりも安かったりという想定はないものとします。実際にそれはないと電気工事店の社長もいっています)。量販店で購入していれば、商品代金を含めた取引費用は安く済むのです。この例でいえば二万円の取引費用を節約できることになります。

では、ここに機会費用を持ち出してみましょう。この場合には、このお客様は二万円を機会費用として失ったことになります。量販店で購入していれば、電気工事店で購入するよりも二万円安く済んだはずです。でも、このお客様はこの二万円の損を覚悟で電気工事店とのコミットメント関係を保とうとしたということです。疑問は、このようなコミットメント関係を保とうとする判断はいったいどのような行動原理によっておこなわれているのだろうかということにあります。つまり、このような取引は、ブラウがいうような「社会的交換」が強い意味を持っているように私には思えるのです。この場合、機会費用や取引費用の相対的な大きさではなくて、社会的不確実性が小さな環境そのものが、選好基準をつくりだしているといえるでしょう。

社会的交換の概念は、対人関係と社会的相互作用における創発的特性に注意を向けさせるものである。あるひとが相手からサービスを受けた場合、彼は感謝の意を表し、機会がくればお返しのサービスをすることを期待される。謝意を表することとかお返しをしなかったりすると、彼は助けるには値しない恩知らずの人間だという烙印を押されるようになる。彼がきちんとお返しをすれば、相手が受け取る社会的報酬はさらにいっそうの援助を寄せる誘因として役立ち、その結果として生ずるサービスの相互交換は、二人のあいだの社会的絆を創出する。(ブラウ,1974,p3)

このような社会的交換の色彩が強い理由で、この電気工事店との付き合いを継続した方が将来的なメリットはあるとでもお客様が判断をしたとしか説明のしようのない経済的交換もあるということです。もちろんこの場合の将来的なメリットは文書化されたり約束されたりしているものではありませんし、なにかを基準に計量できるものでもありません。これをお客様が電気工事店の持っている「なんだかよくわからないけれども人を束ねる力を持った情報」(村上の言葉では『社会的交換を成立させているのは、まさに時間と対人関係の両面において「粘っこい」蔓の情報に他ならない』となる。村上,1994,p141)を重視した結果であるということは簡単ですが、それでは、問題はこの「なんだかよくわからないけれども人を束ねる力を持った情報」とはなにものなのか、ということです。

Written by 桃知利男のプロフィール : 2008年01月06日 09:09: Newer : Older


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