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詩篇


骰子一擲いかで偶然を破棄すべき

ステファヌ マラルメ
1897

秋山澄夫(訳)
1966



















                  ★



 この ノート は,よまないか,一読してわすれてしまうか,していただきたい。修練を経た 読者 がこれから得るところは,ほとんどないにひとしい。だが,無邪気なひとをとまどいさせて,この のはじめからおわりまで,読みの間どり以外になんのあたらしさもない全体に,眼を通させるに至るくらいのカは,あるかもしれない。〈あき〉は事実,重要な役目をになっており,先ず目をおどろかせる。抒情的なものであれ,ほとんど無脚のものであれ,語群は,真中のあたりに,紙片のおよそ1/3を占めるくらいに,まるで沈黙のようにアキにかこまれており,詩法がそれをしからしめたのである。分量は,かえないで,ぼくはただそれをばらまく。一つのイマージュが,続く他のイマージュをうけて,ひとりでに,中絶したり,復帰したり,するごとに,紙が干渉する。整然とした,ひびきたかい麗句とか,詩句とかは,いつものようには問題でなく,むしろ, イデエ のプリズム再分割,それが現れる瞬間,が問題であり,厳密な,精神的な,なんらかの演出においては,それらイデエ全体の持続が問題なのであるから,もっともらしさに応じて,眼に見えない道案内の糸によって,近くに,あるいは遠くに,様々な場所にテクストは位置をしめる。数箇の語群,語群のあいだの数箇の語,をあたまのなかで切離す,うつし取られた間隔の,文芸的な利点が,ぼくにそれを言う権利ありとすればの話だが,テクストを抑揚をつけてハッキリ発音し,その ,すなわち, 詩句 であれ完成した行であれ,他の頁もそうあるごとく,一単位としてとられた頁,の同時的な視覚によってもそれを伝達する運動を,速めたり,おくらせたりするようにおもわれる。見出しがそれを導入し,継続するや,重要な章句の断片的な停止の周りに,書き物の可動性につれて,作り話は水面に姿を現わし,やがてすみやかに消え亡せることだろう。一切は,要約され,仮設として生起する。物語りは避けられる。つけ加えて申せば,撤退,展開,遁走をともなう思考のこの赤裸な使用,あるいはその素描そのものから,結果として,

高声によんでみたい,総譜ができあがる。優勢な主題,第二次的なもの,それに隣接するもの,等のあいだの,印刷活字の相違が,発声に重要性を示唆し,平凡な譜面が,頁の上に,下に,抑揚のあがりさがりを書取るだろう。*ただある種の大胆な指示,蚕蝕,等々が,この韻律学の対位法を形成して,先例のない作品のなかに,要素的な状態で居を占めるにすぎない。すなわち,臆病な試みのよい機会だと考えているわけではなく,勇気もあり,優雅でもある,しかもその要素的な状態が見事に現われるようすすめてくれている定期刊行物の,ぼくの作品が載る巻の,特殊な丁付けを除いては,慣例にあまりに反するようなふるまいは,ぼくの柄ではない。しかし,ぼくは,スケッチよりは多少ましな同封の について,すべての点で伝統と縁を切らない,ある 状態 を指示し,伝統が誰をも遮らないうちに,いろんな意味からその体裁を押しつけた。十分に目をひらかせるために。*今目のところ,ここから何物をも引出せないか,ただ一つの技術しか引出せないだろう未来を買被ることはしないでも,この企てが,意外にも,われわれの時代独特の,めずらしくもないあの自由詩や散文詩の追求に酷似していることを,わけなく気付かれるとおもう。両者の結合は,ある種の影響のもとに実現されるのだが,ぼくにはそれは,外からのもの,音楽会で耳にするあの 音楽 の影響であるとおもわれる。音楽からは多くの手段が再発見されるが,それらは本来 文芸 のものだとぼくには思えるので,ぼくはそれらを奪い返す。このジャンルは,すこしずつ,個人の内面をうたう方向へと,ちょうど交響楽のようなものになる筈で,古風な詩句には手付かずなのだが,ぼくは依然として後者に対する崇敬の念を失わないし,情熱と夢想の主権はそちらにありとしているものだが,それにひきかえ,このほうは,特に(次に見られるように),純粋で複雑な想像力とか知性とかの主題を扱う場合,ということになろう。すなわち,唯一の源泉である 詩精神 から締出すべき,いかなる理由もないところの主題である。
                                     S.M.










*印に挟まれた部分は,1897年5月この`はしがき’が書かれた`コスモポリス誌’の版に特に関係があった。なおまたこのはしがきは,作者みずからの手によって準備され,彼が亡くなった時,近く出る筈にまでなっていた決定版の巻頭にも再登録されるに足る,作者の思想を知る上で実に有意義且っ普遍的な興味をそそるもののようにわれわれには思われた。彼の用いた表現を借りれば,作品の最後の〈状態〉において作者によって確立された刷新の主たるものは,頁を表から裏へと一頁ずつ見るのでなく,行は普通に下へと読んでいくということだけ考慮にいれて見開き二頁を同時に読むという点にあったと思われる。(編者の註)

























   
骰子一擲





















                           

















   いかで



      
たとえ永遠的な環境において
  投げられるとも


      
難破の底から



   
たとえば
        傾く
         天蓋のもと
            怒り狂う
                 不動の
                     白い
          
深淵

                     は絶望的に

                つばさ
                  はのぞみのない飛翔
























   羽博き


   のまえに伏せられ
          噴出するものを蔽い
                      波頭をきり
        思念の内部を要約するとともに
   二者択一のかかる帆により底深く埋葬された亡霊を 
         帆幅
           に一致させるまで
         こちら  またあちら  の舷にかたむいた
                   船体
             の殻としてぽっかりあけた深みを







                  主
               は現われ

                      脚下に燃えさかる火焔により
                                   一体と

                             他ではあり得ない
                  
  が身構え  波立ち
                          運命と風とを威嚇する
                                   みずから

                と推論し






                         秘密を握る片腕
                   ためらうとも

         狂人めく白毛を振り乱し
              怒涛のなにかけて
                         勝負するよりは





                                   人間の





       昔の計算を捨てて
      歳と共に操縦も忘れ去り
          かつて舵を握った者

 
   なった天末線によって

   唯一の
 
   かのように
   を握りしめたこぶし
           にまざり会う


     精神
       として数
           を嵐に投げうち
               分裂を収斂して 誇らしく死ぬために
   高くさし上げた むくろとなって





     波の一つは 白頭を浸し
        ひげを漂わして  流れる
               うつろなら
                  どこであれ
                        船のない
   難破




  無用の頭をこえて
         痙攣する 手
              を先祖らしく ひらかないことを
    消え去るにあたっての
         二者いずれかへの
                    遺贈
  ありもせぬ国土より
     確率とのこの至高の交接へと
          老いたる者を おびきよせた

         かの岸の太古のデモン

   波涛に愛撫され 磨かれ 運ばれ 洗われ
           従順にされ堅い無情なものから
               板のあいだに消えうせた骨を もぎ離された  
                  その 子供めく影
                           波しぶきから
                                   生まれた
                    デモン
 
             無益な機会
   を先祖を通して試みる また先祖がそれに抗して試みる 海から  
    その
      跳ね返る幻影の面紗 老いたる先祖と海との交配
        は仕ぐさする幽霊のように
              よろめくであろう
              たおれるであろう            
婚約
            
                    狂気

                      































  
 は廃棄すべき




         
アタカモ


                          反語ニツツマレタ
                                  単ナル





                        ガ哄笑ト恐怖トノ近ヅク

                                  ソレヲ



                                  深淵













   黙セル
   漂流

    カソレトモ
       落下シ
        吼エタケル
            神秘カ

   渦巻ノナカニ

   マキチラシモセズ
       ニゲモシナイデ
   ノマワリニ ヒラヒラ トビカイ


            ソノ無垢ノ標識ヲ揺リ

                            アタカモ







         




            狂乱シタ孤独ナ羽根





                                 ニ真夜































    ノ縁無帽ガ遭遇シマタハ掠リ
     ソシテ暗イ哄笑ニヨッテシワクチャニナッタびろーどニ


                    ダレデアレ
           暗礁ノニガイ王子
                チカラ尽キタ
          トハイエ雷鳴スル小サナ雄々シイ理性
       ニヨッテ堪エタ
   神人メカシタ縁無帽ヲカムッタモノヲ
                     チッポケデ
               目ダタセナイニハ

                 アマリニ
           天空ニ対立シタ
      嘲弄的ナ

                       コノ硬イ白サヲ
         
                        固定スルノデナイカギリ



         気ガカリナ
               ツグナイノ 妙齢ノ
                                唖ノ




 
                     純白ノ 領主然タル メクルメク
                            ガ カクレタ額ニ
                           キラメキ

                          フタマタノジレッタゲナ


                                タチマチ








                               人魚ノヨウ
                             暗イ可憐ナ背丈











   笑イダ
                 トイウコトハ

                       
モシ

   羽根飾リ



   鱗ノ尾デ

              岩ニ

   蒸発シ濃霧トナッタ
      無限ニオカレタ里程標
              イツワリノ館ニ

       平手打チヲクワセル
     ツカノマ


   ニ身ヲヨジリ立上ル
   ヲ

     オノガ陰ニツツム




                             
ソレガ
                              
星トシテ生マレタ














  ソレハ
    
  モットワルイ
            
イナ
                
以上デモナク以下デモナク
                               
一様ニオナジダケ   












                              


         数デアルナラバ

        それは存在するにしても
           
断末魔のとりとめのない幻覚とは別に

       それは始まりそして止むにしても
             現われるや否定され閉じられるのではあるが湧き出して 
               結局は
                  夥しくも拡散してまばらになり
             それは数えられるにしても

                 単位でさえあれば総計による証明として
              それは照らすにしても




      偶然であるだろう


              災厄ノ律動的ナ 未決
      羽根
         ハ堕チ
             沈没スル
           サキホドソノ錯乱ガ
   渦巻ノ同一ナ中和ニヨッテ衰エタ頂上マデ
                    ソコカラトビ上ッタ
                  原初ノ泡ニ










                なにひとつ


                          忘れ得ぬ危機からは
                                 さもなければ
                                      事は





































   成就されたのだ 人間的ななにものでもない
           無益な全結果をめざして

               
起こりはしなかった
                 眼路にそそぐ不在

                                
場所しか
   すげなくも追散らすためかのような廊下の波音
               むなしい行為を
                さもなくば
            虚妄によって確率したのだ
                  滅亡を

     全世界が溶解する
                  波涛
                       のこの海域に




  
ただひとつ
         見上げる彼方
                 
おそらく
                       下界が他の界を
























     







   相会うはるかとおく
             点火された
       あの穹窿あの勾配によって 一般に
     指標とされるそこはといえば
            関心の外に
                     
北斗また極星
                          でもあろうあたり
            
星座
                     が寒むざむと
                    忘却と廃滅の光をまたたくの
                               
を別にしては
   とはいえそれが空漠としていや高い表面に
                       恒星として
         形成されていく総計の相次ぐ衝撃を
         一つまた一つと数えあげないほどに
          冷たくはなく
    全星宿
         は夜を徹する
                 疑がう
                     輾転する
                           かがやく 思念する
               それを聖別するある終極点
                  に停止するまえに
            
全思考は出発する骰子一擲



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