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イエの原理。(法大EC用メモ)

行為の代数学―スペンサー=ブラウンから社会システム論へ

『行為の代数学』―スペンサー=ブラウンから社会システム論へ

大澤真幸(著)
増補新版
1999年12月10日
青土社
2600円+税


第4象限としての「中景」の理解のために、「イエの原理」についてメモをしておこう。

以下は、大澤真幸『行為の代数学』 p359-362からの引用である。

 GC空間

イエの原理

イエは、しばしば、家族として――拡大家族や直系家族として――捉えられたり、あるいは、少なくとも家族を原型とする集団と見なされてきたが、それは間違っている。イエは、大名によって統括された武士の経営体や、大商人の組織など、家族とは異なる様々なタイプの集団を指し示すのに使われてきた。イエは、秩序だった社会システムを形成するある種の原理として把握するのが、最も生産的な理解の仕方である。

村上・公文・佐藤[1979:211-2]は、イエを以下の四つの特徴によって定義している。

  1. イエの内部の関係は、しばしば擬制的な血縁として理解されることはあるが、原則的には血縁関係を超えている。イエヘの参入は、自覚的な選択意志に従う。この点で、イエは、契約に似ている。だが、一度イエのメンバーになれば、イエヘの帰属は、無期限で無限定である。この限りでは、イエは、血縁集団に類似している。それゆえ、フランシス・シューは、イエ内の関係を統括する原理を、「縁約 kin-tract」と呼んだ。イエは、(参入についての)選択の対象として措定される限りでは、経験的な実体だが、他方で、一度参入した後には、メンバーにとって生の不可避の前提として機能するという点に着眼すれば、一種の超越論的な条件のごときものである。ロバート・スミスも述べているように、西欧にイエと類似したシステムを見るとすれば、それは[法人 corporation]である。
  2. 永続的.な存続が、イエのメンバーの共通の集合目標となっている。その世代間的な持続は、(擬制的な)系譜的連続性として了解されている。
  3. イエは、上記の集合目標のための経営体である。そのメンバーは、目標との関係で、機能的な役割を与えられ、その役割の全体は、階統的な秩序を構成する。
  4. 各イエは、高度に自立的である。イエ成員の生活資料は、しばしば、自給自足的に調達される。イエは、ときに自己防衛のための軍事力を有することもある。婚姻が内婚的な場合すらある。イエの規範的な秩序は、外部の集団から高度に独立している。すなわち、イエは、サンクションのような統制メカニズムに関して、外部からの干渉を基本的に受けない。たとえば、徳川時代において、最大のイエである幕府は、各大名のイエの内政に干渉することはできなかったのである。

私/公関係の相対性にとくに関与的な特徴は、(4)である。先に田原嗣郎に従って指摘しておいたように、共同体=イエが、基本的に自立性を保持したまま、高次の共同体=イエに組み込まれるような構成が反復されるとき、私/公の相対的な階層構造が帰結するからである。社会システムの全体が、こうした規範的に自立的なイエの連合として成り立っているとき、その権力構造は、必然的に、きわめて分権的なものとならざるをえない。

イエの内的な特徴として本質的なのは、個人に対する関係の優位性とでも呼ぶべきものである。イエは、個人の集合としてよりも、独特な内部性を呈する境界づけられた関係のネットワーク――個人の行為はそれによって規定される――として思い描かれるべきであろう。個人に対する関係(間柄)の優位性という点は、きわめて多くの論者が日本社会の特徴として指摘してきたことがらであり、ほとんど紋切り型の常套句であると言ってもよい。そうした論者の中で、最も著名なのは、おそらく和辻哲郎[1934]であろう。和辻は、「人間」という語が、すでにそれだけで、関係性への参照を含意していることに注意を促している。関係の集合が、内部的な領域性を構成し――つまり一個の「囲い」を構成し――、内部のメンバーを外部のメンバーから区別すると同時に、新規の参入に対して相対的に閉鎖的に振舞うようになる。こうして構成された内部的な領域性が固定され、そこへの所属がメンバーのアイデンティティの中核的な要素となったとき、その内部的に振る舞い始めた関係のネットワークが「イエ」なのである。

しかし、イエの基底的な特徴が、このような「関係の優位性」にあるのだとすれば、これを、とりたてて日本的な特殊性と見なすべきではない。実際、これは、非常に一般的に見られる現象であると言ってよいだろう。少なくとも、ほとんどすべての原始的な共同体(無文字社会)に、これと同じ特徴を見ることができる。この事実から、次のように推論すべきだろう。イエに見出すことができる、「関係の優位性」とは、社会システムの基底的な自己支持的な構成の原理そのものなのだ、と。すなわち、それは、原始代数の二次方程式によって表現されるような、システムの自己指示的な機制に対応する原理なのだ、と。

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