ポール・サイモン―サプライズ

simon0508.jpgポール・サイモンの『サプライズ』は、日本版も購入した。それは贔屓だから、ということもあるが、どうしても確かめたいことがあったからだ。 それが、「ファーザー・アンド・ドーター」の日本語訳だといったら、やっぱりヘンだろうか。

この曲は、映画「The Wild Thornberrys Movie」のサントラ盤に収められていて、その日本語訳を、無謀にも2003年3月9日の店主戯言で挑戦していた。(笑)

http://www.momoti.com/myself/self0303_01.htm#030309

そのときから、ずっと引っかかっていた箇所があって、それは

Trust your intuition
Its just like going fishing
You cast your line
And hope you get a bite
But you dont need to waste your time
Worrying about the market place
Try to help the human race
Struggling to survive its harshest night

であって、これを 

自分の直感を信じよう
あたりを信じて釣り糸を放り込む時のようにさ
でもお金儲けに君の時間を無駄に使うこともない
このつらい夜から、みんなを救い出せればいいのにね

と私は訳していたのだが、歌詞カードの日本語訳は

直観を信じるんだ
釣りの時と同じで
釣り糸を投げ入れると食いついてくれるのを待つよね
でも市場を心配したりして
時間を無駄にしてはいけない
真っ暗闇の中で
生きていこうともがいている人間達の
力になるんだ        (対訳:滝上よう子)

ん~。私のも酷いけれども、これもねぇ……。(笑)

じつはこのフレーズ、今回の法大ECのテキストである『ハイ・コンセプト』にも引用されていて、そこではこうなっている。

本能を信じて。それは釣ざおを握ったとき(魚がかかったかどうかがわかるとき)のあのフィーリングだ。(p259)

これは「創造性」における「直感(直観)」の大切さの隠喩だろうが、それにしても大前さん、詩的センスなしですよ。まあ、詩で飯が食えるか、と反論されればそれまでですが。(笑)

たったこれだけのフレーズでも、こんな具合に、翻訳者によって、対訳は微妙にニュアンスが違ってくる。これは日本語のなせる業なのだろうが、問題もなきにしもあらずだ。

なにしろ、かっちりと意味は伝わらない。私たちは、どこか曖昧に意味を解釈(理解)してしまう。 それなら、原語のまま理解したらいいじゃないか、と云われるかもしれないが、はい、たしかにそれはそのとおりだ、と私も思う。

できればそうした方がいいに決まっている。でもできないわけだ、私は。

例えば英語の原書を読んでいても、必ず脳みその中で対訳――日本語の語彙――を探している。その上それを日本語で表現するときには、(文脈的に)もっと適切な語彙はないかと深追いしていたりするわけで……。しかしこれも、日本語で考える日本人の証なのだと思う。

私たちは確かに曖昧な日本語で考えている。だからといって私は、例えば英語圏で通用する日本人を育てるなら、英語力を強化する、なんて教育方針を支持はしない。むしろ、日本語を鍛えた方がよいと考えている。対訳の語彙の方を増やすことで、逆に外国語での表現は容易になると考えている――勿論、外国語の基本は押さえておく必要はある。対訳はハイブリッドだ――。いってみれば、それはマッピングだろう。そのためには

  • 本を読む。
  • わからない言葉があったら辞書で調べる。
  • 調べたら直ぐにその言葉を使ってみる。

という、これだけのことを繰り返せばよい。

さて、話題を『サプライズ』に戻すが、このアルバムには、Sonic Landscape by Braian Enoというクレジットがある。Braian Enoととは、勿論あのブライアン・イーノだ。しかし、Sonic Landscapeは、なんだかさっぱりわからない。ただ「ファーザー・アンド・ドーター」のサントラ版と、(たぶんイーノがいじったであろう)『サプライズ』版を聞き比べると、ああ、Sonic Landscape by ってこういうことなのね、と「なんとなく」わかる。(笑)

それは些細な違いなのだ、ステレオ空間に広がる音の粒子の数が違う。本当に些細なことなのですが、それは右脳にビリビリ響くより野生的な音になっていて、無限小が飛びまくる。これもマッシュアップと呼んでいいのだろうか。

参考

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代

作者: ダニエル・ピンク, 大前研一
出版社/メーカー: 三笠書房
発売日: 2006/05/08
メディア: 単行本

Wild Thornberrys Movie

Wild Thornberrys Movie
出版社/メーカー: Jive
発売日: 2002/11/26
メディア: CD