大量年金記録漏れ問題は日本のネオリベ化の加速装置か?

内閣支持率

まだ、内閣支持率の急落は、強調されて続けている。

内閣支持率は急落、32・9%…読売世論調査」(6月8日2時11分配信 読売新聞

読売新聞社は5日から7日にかけて、参院選に関する第1回継続世論調査(電話方式)を実施した。/安倍内閣の支持率は32・9%、不支持率は53・7%で、不支持率が支持率を21ポイント上回った。/大量の年金記録漏れ問題や自殺した松岡利勝・前農相らの政治とカネの問題が大きく影響していると見られる。ただ、政府が年金の支給漏れの額を補償する対策などを打ち出したことについては、「評価する」は計51%で、「評価しない」計42%を上回った。/本社が面接方式で実施している全国世論調査では、昨年9月の内閣発足以来下落し続けていた支持率が、5月調査(19、20日実施)で49・6%(不支持率は36・8%)と上昇していた。調査方法が違うため、単純には比較できないが、安倍内閣の支持率が再び下落傾向へ転じたと考えられる。

大量年金記録漏れ問題

今回の支持率下降の大きな原因となっている「大量の年金記録漏れ問題」は、安倍晋三にとっては降って沸いたような不幸でしかないだろう。しかし

だが、誤解を恐れずに言えば、「5000万件未処理」は安倍内閣によって導き出されたものではない。そのあたりはフェアーに観察したい。(花岡信昭:「年金」が参院選最大の争点となることの代償

なのであって、たぶんこれは大方の国民が受け入れやすい意見となるだろう。つまり世論は、安倍内閣の責任問題というよりは、この問題の処理能力を(自民党と民主党に)問うかたちで、参議院選挙に向かうのだろう、と思う。

批判の矛先の反転

その過程で、批判の矛先は、そもそもこんな問題を引き起こした「社会保険庁の職員組合(自治労)の体質」へ向かうことになるはずだ。

しかしそこでは、民主党のかかえる矛盾(党首小沢一郎は強烈な新自由主義者であるが民主党の支持母体は組合であること)が浮き彫りになることで、民主党の参議院選挙の第一キャッチフレーズが「民主党はあなたの年金を守ります」であるように、それもまた、この問題の処理能力の問題とすげかえらることになるだろう。

年金の未処理問題は社会保険庁の職員組合(自治労)の体質に由来する。オンライン化に対して労働強化反対を叫び、「45分間窓口端末を操作したら15分休む」といった労使間の確認書が交わされていたといった事実も明らかにされている。こうした労使の確認条項は、社会保険庁改革が進む過程ですべて破棄されている。/納付記録のずさんな処理は、こうした民間では考えられない体質から生まれた。自治労は民主党の有力な支持母体である。あえて言えば、今回の年金問題の責任は安倍政権よりも、こうした体質を放置していた民主党側にありはしないか。民主党は未処理問題を追及した結果、自らの支持母体のぶざまな実態を天下にさらけ出してしまったのである。(花岡信昭:「年金」が参院選最大の争点となることの代償

ここで引用している花岡信昭のコラムは(どの程度の影響力をもつのかは知らないし、多分に自民党寄りではあるが)、いいところをついていると思う。

急造二大政党制の矛盾の露呈

つまり、「社会保険庁の職員組合(自治労)の体質」批判は、民主党ではなく、もはや新自由主義政党となった自民党の仕事となる、ということだ――そのことで安倍内閣は今の支持率を少しは改善できるだろう。既に、『ただ、政府が年金の支給漏れの額を補償する対策などを打ち出したことについては、「評価する」は計51%で、「評価しない」計42%を上回った』のだしね。

しかしこれは、本当は小沢一郎がやりたいことなのである――というか民主党が本領を発揮しようとするなら(ネオリベ二大政党としてのね)、組合をたたき潰してしまうような政策提案をしなくてはならないのは、まず民主党でなくてはならないからだ――しかしそれができないのだから、この国のネオリベ二大政党制はどこかで無理が露呈してる。

政府与党の社会保険庁解体案は、非公務員型の日本年金機構に改組し、業務の民間委託や悪質な滞納は国税庁に徴収を依頼できるというものだ。民主党案は社会保険庁と国税庁を合体して歳入庁とするという内容で、いわば公権力をバックに年金徴収の安定化を図ろうという発想に見える。政府与党案が「民営化」を意識しているのに対して、民主党らしからぬ案に映るのは、組合擁護第一の姿勢が見え隠れするからだろう。(花岡信昭:「年金」が参院選最大の争点となることの代償

新自由主義改革の敵

今回の問題の露呈は、日本におけるネオリベ(新自由主義)改革の進展を象徴しているように(私は)思う。なぜなら、新自由主義(ネオリベラリズム)の実践(改革)における「敵」は、まず第一に労働組合運動を背景にした福祉国家体制なのである。(サッチャーのやったイギリスのようにね)。

しかしそれは欧米(特にヨーロッパ)でのことで、日本での第一の「敵」は戦後の開発主義政策であった。つまり改革の対象は官僚主導の産業政策だったわけだが(そのことで地方の公共事業は激減した)――日本の新自由主義も、やっとネオリベの敵らしい敵をみつけた、ということだろう。と同時に、もはや開発主義的なものは、敵とはみなされないぐらいに弱体化している、ということだ――といううか、開発主義を一皮剥いたら出てきたのが今回の問題、といった方がよいかもしれない。

そして私はますます生き難い

大量年金記録漏れ問題は解決しなくてはならない問題であり、社会保険事業の改革も急務である。多くの方々もそれに異論はないだろうし、(私も)政府与党の社会保険庁解体案に賛成する。

しかしそのことで、日本のネオリベ化はさらに加速してしうまうだろう。そしてそのことで、パトリを擁護する(反ネオリベな)私は、ますます生き難いのである。(今でも十分生き難いのにね)。