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第14回 中小建設企業情報化指針概論


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今回は、配信数1000名突破記念ということで、現時点での僕の主観に満ち溢れた中小建設業情報化指針を簡単にまとめてみました。

中小建設企業が自らの情報化において取組むべき課題は、組織的な取組みと現場の情報化を最優先とした取組みです。

◇情報化における組織的な取組み

 情報化は標準化の作業であり、標準化は合意形成の作業です。社内においてこの標準化活動に対する合意形成が出来ていないと、情報化への取組みは無駄な投資を帳簿に残して頓挫することになる可能性が高いと言えます。
 
 これは、総論賛成各論反対を如何に押さえるのか、標準化におけるセクショナリズムや個人の独善性との決別という問題なですが、これを可能にするものは、経営トップの強力なリーダーシップに支えられた組織的な情報化への取組みです。

 組織的な取組みにおける最初のステップは、自社のこれからの進むべき方向を、全社レベルで話し合ってみることです。つまり、建設CALS時代に生き残る建設企業としての自社の進むべき方向を、経営者自らが示し、それを自社の総意として情報化を行うと言う事を、全社員で確認することです。
 
 それには、まず経営トップ自らがリーダーシップを発揮し、社内情報化推進のための組織(プロジェクトチーム)を会社公認として組織すること。そして、そのプロジェクトチームにおいて建設CALSへ向かって進むべき御社の方向を徹底的に研究し、方向付けを
していくことだと言えるでしょう。

 ここにおいては、当然に建設CALSへの理解と対応についての全社的な勉強、情報化についての全社的な意識統一(アプリケーションやデータの標準化)も行われることになるでしょう。これが、情報化に取組むという場合の基本姿勢であると私は考え、実践しています。

 このような情報化の取組みにおいて経営者に求められる意識とは、情報化は経営の問題であり、今後の建設業にとっては避けて通れる問題ではないという事実認識です。このような取組み方法は確かに簡単なことでは有りません。ともするとベンダーに全てを任せて、自らは逃避したい問題かもしれません。

 しかし、このような情報化への取組みによる社員意識変革(自社の企業文化)は、目に見えて成長してくるものであり、その取組みによる他社へのアドバンテージは非常に大きいと考えられると思います。

 このようなプロジェクトチームの構成員は、各部署から横断的に、そして社命として任命する必要があります。当然に、仕事にも情報化にも前向きな方が適任ですが、なによりも、社命としての仕事であることが大切です。これは最終的には経営トップが責任を取るという責任体制の表現でもあります。

 結果として、このプロジェクトチームはコンピューターを使った様々な業務改革案を提案される事と思います。つまり、このプロジェクトチームは、上手に機能すると、社内業務のビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR:業務改革)をも誘導する働きを行うということでもあります。


◇現場の情報化

 建設CALS対応を見据えた社内情報化の目標とは、全社員レベル(特に現場、作業所レベル)での社員の情報リテラシイ(コンピューター操作能力・情報処理能力)の習得、向上以外のなにものでもありません。建設業情報化の特色は現場、作業所の存在なのです。

 建設業においては、現場代理人に代表される現場へ権限委譲を前提としたシステム(分散型組織形態)を構築しています。これは企業規模の大小とは関係無く、分散型の組織形態を最初から掲示している例として特色的であり、現代の情報化の志向が分散型組織形態を要求しているのを考えると、基本的な情報化に適した組織スタイルは既に形成されていることに気が付きます。

 確かに分散型(現場、作業所があると言う意味で)での方がネットワークを活用した仕事の効率化の素晴らしさが実感できるものだと思いますし、現場の情報化の推進は、CALS的な考え方の一つである、ポスト集中:Decentralizationの実践の場なのだとも言えるものでしょう。

 この建設業における分散型組織においては、現場の能力開発に十分な投資を行い、そして成果をあげてきているという経緯があります。それは長年に渡り蓄積されてきたものであり、建設会社は現場毎に存在する社長の集合体のようなものだというイメージを僕は持っていますが、それ故に、現場担当者個人の独善的なやり方が幅を利かせているという感は否めません。

 故に、建設業における情報化の成功は、この独立国のような現場の存在をどこまで理解して、情報システムを構築できるか、標準化の合意を推進できるのかにかかっています。

 地建の工事事務所発注の建設CALS実証実験対象現場も、かなり規模の小さなものが発注されているようですが、そこで行われるCALSの実践は、現場で対応しなくてはならないものがほとんどです。わざわざ本社まで行かなくてはメールの送受信ができないようではCALSのメリットは無くなってしまいますし、建設CALS対応現場担当者というのが、特別に存在するような情報化は、根本的に情報化へのスタンスが間違っているのだと考えます。

◇ネットワークの構築について

 CALSをある側面から言い表せば、それはネットワークとデータベースの活用ですが、現場の情報化を見据え、且つ、建設CALS対応を考慮したネットワークとは、イントラネット、インターネットの活用を大前提としたネットワークです。
 
 イントラネットの成功は、社員の情報リテラシイを格段に向上させます。クライアントにはWEBブラウザを使い、社内での電子メール活用も当然に行うこととなりますから、基本インフラとしてインターネット技術を利用する、建設CALS対応の社員の情報化教育は、日々の社内業務の中で自然に進んでいくこととなります。

 建設業における現場のネットワークを考える場合、現場は、SOHO実践の場であり、サテライトオフィスでもあり、テレワークの場でもあることを理解する必要があります。

 ですから、現場で使えるネットワークとは、シンプルで自由なネットワークの必要があります。現場で使えるPCとは、出来る限り時と場所を選ばず自社のネットワークに接続される必要があるでしょう。それはモバイルの実践でもあります。故に、主に同一事務所内での利用を前提にしたようなシステム構成のネットワークでは、現場におけるコミュニケーションとコラボレーションの実現を著しく阻害するだけだと言えるかもしれません。
 
 しかし、多くのベンダーにはこの発想がかななか見られないのが残念です。原因は建設業を知らなさ過ぎる(今まで中小建設企業との接点が少なすぎる)という点に尽きると思いますが、今後、地場型中小建設企業においては、社内ネットワークを着実に構築していく必要がある企業が何十万社もあると思われますので、ベンダーはものを売らんかなの姿勢を表に出す前に、建設業における情報化の特徴である現場の情報化をよく理解され、多くの地場型中小建設企業の情報化に対する良きアドバイザーとなっていただきたいと思います。
 
 信頼の置けるコンサルタントやベンダーに情報化に対するコンサルテーションを依頼した場合でも、建設企業は、何の為に何をするのかを自社の情報化プロジェクトチームによってきちんと考え、全社員に目標として提示できる取組みを行う必要があります。ネットワークが大事だからといって、ベンダーまかせでのシステム構築では失敗の確率が高くなるだけです。無駄な情報化投資を行わない、効率的な情報化投資を行うためにもプロジェ
クトチームによる組織的な取組みの必要性があります。また、コンサルタントやベンダー選択の場合、どれだけ建設業、現場を知っているかで選択したほうが良いかもしれません。


◇インターネットの活用について

 建設CALSの実証実験フィールドを見てみた場合でも、まず現場担当者レベルで必要な情報スキルとは、インターネットの活用、特に電子メールを使えるということです。

 電子メールの本格活用の前提条件が一人一台のパソコン環境構築であることは当然ですが、さらには、社内の基本インフラとしてのイントラネットから、シームレスに社外とのコミュニケーションができる環境の構築は、建設CALS対応を目指した情報化の取組みにおいては必要最低条件と言えるでしょう。

 しかし、インターネットの利用に関しては障害が多いのも事実です。最も顕著なものとしては経営トップの情報化意識があげられます。

 インターネットの利用、電子メールの利用については、慣れの問題が大きなウェートを占めますので、この部分に関しましては、なるべく早くからの取り組みを行い、十分なスキルとネチケットの習得を全社員レベルで行う必要があります。
 
 しかし、多くの経営者にとって、インターネットのイメージは、どうしても仕事とは結びつけを行うことが難しく、「インターネットを使える環境=遊び道具を社員に与えるイメージ」から自らの情報化志向を脱皮させることができないのが現状のようです。

 それ故、情報化の取組みにおいても最も後回しにされる確率の高いもが、このインターネットの部分だと言う傾向があります。しかし、これでは、いつまでたっても情報化の効果を経営トップは享受することはできないでしょう。

 結局、建設CALSへの対応を踏まえた情報化とは、CALSによる調達概念へ向けた自社の経営体質の変革運動なのであり、インターネットの精神文化と自社企業文化の同化こそが、これからの建設企業に必要とされる脱護送船団方式経営(差別化やコア・コンピタンス経営)の源であると考えます。

 この意味で、建設CALS対応そしてCALSを超えた情報化においてまず取組むべき課題とは、全ての社員がインターネットに接続できる、メールを相互にやり取りできるという環境の整備とスキルの習得であり、経営トップ自らが、インターネット、イントラネット、電子メールを使うことでの、インターネットの精神文化の実体験とその本質の理解なのです。

   99/05/10 (月)



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