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第16回 現場の情報化と組織的な取組み【概論】


以下はデジケン3号の原稿草書です。イントラネットの必要性の再認識のために掲示します。
「現場の情報化と組織的な取組み【概論】」

 前回は、建設CALS対応を見据えた情報化の取組みとは、コア・コンピタンスと差別化経営実現の為の、自社組織の創造的活性化を目的とした取組みであり、その企業文化的源泉とは、インターネットの精神文化であることを指摘しました。
 そして、その取組みのための3大ポイントとして、1・経営トップのリーダーシップ、2・建設業の情報化=現場の情報化、3・組織的な取組み、を掲げ、まずは経営トップのリーダーシップについての重要性を述べました。
 今回は、建設CALS対応を見据えた「建設業の情報化とは現場の情報化である」、そして現場の情報化には「イントラネット」の活用が有効であり、その推進には「組織的な取組み」が欠かせないという話です。

■建設CALS対応はまず現場から
 建設CALS対応を見据えた社内情報化の目標の一つは、現場を含めた全ての社員レベルでの情報リテラシイ(コンピューター操作能力・情報処理能力)の習得、向上にあります。建設業情報化の特色は現場の存在です。
 建設省発注の建設CALS実証実験対象工事も、現在はかなり規模の小さなものが発注されていますが、そこで行われる建設CALSの実証実験は、現場で対応しなくてはならないものがほとんどです。わざわざ本社まで行かなくてはメールの送受信ができないようではCALSのメリットは無くなってしまいます。
 建設CALS対応を意識した建設業情報化において最初に意識すべきこと。それは「現場」の存在であり、本社、現場にかかわらず、自社で働く全ての社員による情報化への取組み、情報リテラシイ向上にあると言えます。

■建設業は分散型組織形態
 建設業は、現場代理人に代表される、現場への権限委譲を前提としたシステムであり、その意味において必然的に分散型組織形態を形成しています。それは企業規模の大小とは関係無く、分散型組織形態を最初から持ち得ている事業形態例として特色的であると言えます。
 現代の情報化が、分散型組織形態を要求しているのを考えると、建設業においては、基本的には情報化に適した組織スタイルは既に形成されていると言っても良いでしょう。本社事務所以外に仕事をする場があると言う意味で、建設業における分散型組織形態は、情報技術(特にネットワーク)を活用した業務効率化のメリットが実感し易く、現場の情報化の推進は、CALS的な考え方の一つである、ポスト集中(Decentralization)の実践の場なのだとも言えるでしょう。
 さらに、施工の専門家集団としての現場は、専門家集団によるプロジェクト遂行の場でもあります。これは、夫々の機能の専門家が、一つのプロジェクトのためにチームになって協働して働くというワークスタイルにおいて、極めて知識労働のための組織モデル形態であり、情報化組織のモデル形態でもあります。
 しかし、建設業における分散型組織(現場の存在)は、現場は(神聖なと言う意味で)極めて特別視され、現場の能力開発には(極めて現場任せきりにもかかわらず)ある程度十分な投資を行いながら、そして成果をあげてきたという経緯があります。
 それは長年に渡り経験的且つ個人的に蓄積されてきたものであり、そのノウハウは、今までの建設業においては充分な機能を果たしてきたものと言えると思います。
 しかしそれ故に、建設会社は現場毎に存在する経営トップの集合体のようなものだというイメージが極めて強いと感じられます。つまり現場担当者毎の独善的なやり方が、堂々と幅を利かせている非標準化組織体という感じが拭い切れません。ですから、建設業における情報化の成功は、この半ば独立国のような存在の現場をどこまで理解し、情報化(標準化)の取組みに参画させて情報システムを構築できるのか。全社的、そして自社を超えた標準化の合意(CALS)を推進できるのかにかかっていると言えるでしょう。

■コミュニケーション&コラボレーション
 現場の情報化の原点は、全ての社員によるコミュニケーション&コラボレーションの実践にあります。それは、情報化はコア・コンピタンスと差別化経営の実現の為にあるのであり、そのためには、全ての知識従業者を巻き込んだ情報システムの構築は不可欠だということであり、自社の情報ネットワークから現場を外してはならないということです。当然現場を預かる全ての社員は知識労働者です。
 ですから、情報システム構築の目的もここ(現場を含めた全社的な情報化)にある必要があります。現場を疎外したシステムでは意味がありません。
 建設業の場合、長い間コミュニケーション&コラボレーションは、然程重要視されないものでした。それは、前述の様に、建設業においては、現場が分散して存在しているという地理的な問題が絶えず存在するため、現場代理人に代表される現場への権限委譲を前提としたシステム(分散型組織形態)が構築され、物理的に全ての社員が顔を付き合わせて意思の疎通を行うという機会を持ちにくかったからでしょう。
 その為、比較的小さな組織体でも社員間のコミュニケーションは意外と欠如しているものです。コミュニケーション無きところにコラボレーションが生まれるはずもありません。

■現場はテレワークの場である
 現場の情報化を考える場合、現場はテレワークを実践している場であることを意識する必要があります。
 これまでの情報システムは、決まった勤務地に出向き、限定された場所で仕事をする。いわゆる一般のオフィス勤務が前提でした。しかし最近は建設業以外においても、特定の場所に限定されずに働くさまざまなワークスタイルが出現しています。それは一般にテレワークと呼ばれています。
 テレワークという新しいワークスタイルを実施していくためには、企業と個人との間でいくつかの前提条件が必要となります。それらは権限委譲、自己管理、成果主義です。
 まず、権限委譲は上司がある程度、部下に仕事のプロセスに幅を持たせてあげなければ離れた場所で仕事をすることができない。上司が安心して任せられる部下とは、自己管理ができる人材であるということ。そして常に上司と部下が顔を会わせられないぶん、成果で評価を行っていくなどの方法が必要となる。このような条件が整ってこそ、テレワークという新しいワークスタイルが実施できるといえます。
 テレワークは、インターネットなどの情報技術の発達によって生み出された新しいワークスタイルとされていますが、建設業における現場とは、もともと特定の場所に限定されずに働くワークスタイルです。上記で指摘される前提条件は、既にクリアさ
れているのです。
 テレワークという発想こそ、現場の情報化に最も合った情報技術の活用方法なのです。

■シンプルで自由な情報システム
 テレワーク実践の場としての現場で使える情報技術とは、シンプルで、自由なネットワークが基本である必要があります。現場で使えるパソコンとは、可能な限り、時と場所を選ばずに自社のネットワーク、そしてインターネットに接続される必要があります。すなわち、同一事務所内での利用を前提にしたようなシステム構成のネットワークでは、現場におけるコミュニケーション&コラボレーションの実現を著しく阻害するだけであり、現場の情報化を主眼とした建設業情報化の取組みには使えないと言えるでしょう。
 ベンダー主導型の情報化手法によく見られる例ですが、日中、人影少ない本社事務所に、主のいない沢山のパソコンが整然と並んでいる光景を見ることあります。これは、確かに一人一台に近い環境は構築しているにもかかわらず、パソコンを使える場所を本社事務所に限定しているために、システムの有効活用が出来ていない典型的な例です。
 また、せっかく現場にパソコンを配置しても、そこで使われる情報システムがテレワークに向かないものである場合があります。(例えば、固有のクライアントを使うグループウェア等)
 このような例の場合、情報システムに求める機能には、コミュニケーション&コラボレーション的な発想が無いのが特徴です。そしてなによりも、建設業の特徴である現場の存在を考慮していない情報システムであり、建設CALS対応とは全く逆ベクトルの志向を持つシステムであると言わざるを得ないのです。

■イントラネット
 それでは、現場を含めた自社ネットワークにおいて、最も有効な答えは何なのかと言えば、それはイントラネットだと私は考えます。イントラネットは、建設CALSで使われる基本インフラであるインターネットの技術を社内的に利用したものであり、基本的にはインターネットとシームレスな関係を持っています。
 ですから、イントラネットの活用は、当然に社員の情報リテラシイの向上を促すことになりますし、逆説的には、イントラネットの成功は、社員の情報リテラシイと密接な関係をもっているとも言えます。
 イントラネットは、その代表的な機能である電子メール、Webベースの電子掲示板は当然のこととして、文書やデータの共有も簡単に行うことができます。遠隔現場からの工事報告等は、デジタル写真と電子メールや電子会議室等を活用すれば、わざわざ遠隔現場まで出かけなくとも、現場を可視的に確認することも可能となります。ISOにおける文書管理の問題も、イントラネットの技術を用いれば、紙のドキュメントをデジタルデータ化することで版の管理が効率化できます。
 すなわち、社内においてイントラネットを活用して行う様々な業務は、そのまま建設CALSで行われる業務の予行演習ということができるでしょうし、逆説的では有りますが、イントラネットを有効活用することを目的とした情報化の取組みによって、建設CALSに対応できる社員の情報リテラシイの向上を図ることが可能となると言えるでしょう。

■勘違いトップダウンの悲劇
 私が行っているCALS度診断へは、多くの中小建設業の皆さんから診断依頼が寄せられていますが、問診表を拝見させていただくと、パソコンの導入はそれなりに進んでいる反面、私が「社内情報化プロジェクトチーム」と呼んでいる、社内情報化の推進と調整の為の機能を設けていらっしゃならい企業が多いのが気になります。それ故に、社内標準の策定、現場の情報化が進んでいない事例を見受けます。
 社内情報化プロジェクトチームの様な、推進と調整の為の機能無しの情報化は、その場主義の情報化に陥りやすく、形だけの情報化に終わる可能性が高いと言えます。
 中小建設企業に限ったことではありませんが、トップが強い統率力を持つ中小規模の組織では、社内情報化プロジェクトチームを設けずに、トップダウンだけで情報化が行われるケースがあります。このような場合、トップが頼るのは、多くの場合ベンダーということになり、ベンダーにまかせっきりの情報化が行われることが多々あります。
 ここで問われるのはベンダーの質ですが、全てではありませんが、中小建設企業の特質を理解できているベンダーは、非常に少ないのが現状です。
 例えば、建設業界への情報化市場に参入しているアプリケーションメーカーの多くは、財務、CAD、積算、構造計算等の、建設業のある一面に特化した専門メーカーです。それ故、専門的な部分に関してはそれなりの効果をもたらす製品を提供していますが、どれも経営全体をトータルにマネジメントするようなアプリケーションではありません。全て単なる部品にすぎません。多くのベンダーが提供する、このような部品的アプリケーション導入中心の情報化は、中小建設業の本質を知らないベンダーが行うと、木を見て森を見ない情報化の典型となる場合が多いのです。
 建設業における情報化の本質は、「企業文化の変革」であることを忘れてはなりません。建設CALSの根底にあるものは、「オープン(解放性)」「ボトムアップ(平等性)」「ボランティア(自律性)」といった、いわば「グラスルーツ(草の根)」の文化です。 つまり、自社の企業文化の変革に対する努力はしないで、パソコンは社員全員に買い与えた。ベンダーがこれさえあれば大丈夫という、アプリケーションも買って与えた。社員の皆さん、さあ、どんどん使いなさい。私はなんと情報化に対して理解のある経営者なんだろう。(使えないのは社員の努力が足りないからで、私のせいではない。)
 この様な情報化では、意味が無いということです。結局、使えない情報システムとリース料の支払(経費)だけが残ります。建設CALSへの対応など、どこかへ飛んいってしまいます。これなら何もしない方がまだましです。

■ベンダーの言い分
 一方、「中小建設業者は本当に情報化武装する意識があるのか疑問である。」、「中小建設業は市場として成立するとは思えない。」という様な話を、アプリケーションメーカーやベンダーから受けることがあります。確かに、現況はそう見えるのかもしれません。
 この原因は、中小建設企業経営者の情報化(建設CALS)に対する理解不足や責任逃れ的意識もあるでしょうし、ベンダーの力不足、アプリケーションメーカーの旧態依然とした体質にもあるかもしれません。むしろ、これらがお互いに作用し合い、ベンダー側から見れば、中小建設企業の経営者は、情報化に対して少しも積極的ではないと見えるでしょうし、経営者側から見れば、情報化などと言われても何から手をつけてよいのか分からない上に、ベンダーに情報化を一任してまうのも不安がある、というようなお互いの理解不足故の悪循環から逃れられないでいるように思えます。
 私は、この悪循環の環からの脱出の鍵は、情報化プロジェクトチームによる組織的な情報化の取組みにあると考えます。

■ビジネス・センス
 私は新人サラリーマンの頃、システム監査についての勉強をしていましたが、当時、システム監査人を育てるには、SEを教育していけば良いのか、監査人から育成していけば良いのか、という問題がよく話されていました。当時のメモを見ると次のような記述があります。
 ・SEにしても監査人にしても、トップマネジメントと対等に話が出来るだけの「ビジネス・センス」が待てるかどうかが問われる。
 ・この「ビジネス・センス」がなければシステム監査は出来ない。
 ・この「ビジネス・センス」がないと、たとえシステム監査をやったとしても、システム監査のある一部分のスペシャリストにとどまってしまう。
 ・20代のころ、しっかりと現場の現業をこなし、会社が何をやっているのか、どのような方向に進もうとしているのかということを、身体で覚えておきさえすれば、あとはコンピュータの技術的なことと監査を勉強すればいいのだから、難しいことはない。
 ・「ビジネス・センス」=「マネジメント・センス」

 私は、この「ビジネス・センス」こそ、中小建設企業情報化において最も大切なものだと思います。そして、皆さんの会社にも、若い頃から現場の現業をしっかりとこなし、会社が何をやっているのか、どのようの方向に進もうとしているのかを理解されている「ビジネス・センス」をもった社員さんは必ずおられるはずです。
 多くのベンダーに、中小建設企業に対する、この「ビジネス・センス」を求めるのは酷な話です。ベンダー主導型の情報化が、形だけの情報化に終わる場合の最大の原因は、ベンダー側にこの「ビジネス・センス」が欠如しているためです。
 しかし、コンピュータや情報技術については、ベンダーは当然よく知っています。「ビジネス・センス」を持った社員で構成される社内情報化プロジェクトチームが、必要とする技術的専門知識を補うために、オブザーバー的にベンダーを活用する社内情報化ができれば、お互いの立場は明確であり、スリムで効果的な情報システムの構築が可能だと言えます。またベンダーはものを売らんかなの姿勢を表に出す前に、建設業における情報化の特徴である現場の情報化をよく理解され、多くの中小建設企業の情報化に対する良きアドバイザーとなっていただきたいと思います。※3

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■引用・解説

※1
「新しい現実」1989年 ダイヤモンド社 P・F・ドラッカー P302

引用・解説
※2
テレワークには次のようなワークスタイルがあります。
・サテライト・オフィス− 現場はこれですね。まさに分散型のオフィスです。、
・SOHO(Small Office Home Office)−アルビン・トフラー著、「第三の波」、1980年から「はっきりした数字は不明だが、今日既に多くの仕事が家庭で行われている。男女販売員がときどきオフィスに連絡に立ち寄るだけで、電話や訪問で販売している。建築家、デザイナー、企業コンサルタントも急増している。心理学者のように、人間を対象に仕事をする人たちも多数いる。音楽教師、語学教師、美術商、投資コンサルタント、保険外交員、弁護士、学者など、その他大勢のホワイトカラー、投資家、専門家たちが家庭を労働の本拠にしている。」これ、即ちSOHOですね。デジケン家入副編集長も実践中?。
・直行直帰型−元々建設業に多いスタイル。現場への直行そして直帰のスタイルが情報技術を活用することで最先端のテレワークスタイルに。
プロジェクト参加型−JVなんていうとこれですね。どこが自分の会社なんだかわかんなくなってくる。(笑)
・モバイル…何時でも何処でも仕事をしますよという意思表示。ホテルで原稿を書いたり、移動先で報告書を作成したり、電車の中でメールを読んだり、あるいは自宅で竣工書類をまとめたりと。。。。

※3
信頼の置けるコンサルタントやベンダーに情報化に対するコンサルテーションを依頼した場合でも、建設企業は、何の為に何をするのかを自社の情報化プロジェクトチームによってきちんと考え、全社員に目標として提示できる取組みを行うのは当然です。
現場を含めたネットワークが大事だからと言って、ベンダーまかせでシステム構築を行っても失敗の確率が高くなるだけです。無駄な情報化投資を行わない、効率的な情報化投資を行うためにもプロジェクトチームによる組織的な取組みの必要性があります。
また、コンサルタントやベンダー選択の場合、どれだけ建設業、現場を知っているかで選択したほうが良いかもしれません。


図1 別添パワーポイントP1
図2   〃      P2
図3   〃      P3


1999/12/19  MOMO


桃知商店
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