THE pinkhip WORLD   「中小建設業情報化講座」  |戻る 著作権|   

第3回 トップダウンとボトムアップ


前回、情報化を目的とした情報化への取組こそが、中小建設業では有効ではないかとの認識を示しました。
今回は、この手法における、2つに大別される情報化アプローチについての話です。
すなわち、経営トップが情報化の先導に立ち、率先して情報化を進めるトップダウン方式と、現場が率先して情報化を進めるボトムアップ方式の二つの方法について考えてみます。
■トップダウン方式
トップダウン方式では、経営トップが情報化の効用に注目し会社として情報化に取り組んでいく方法です。
当然、パソコンの導入やLANの敷設等の情報インフラの整備を全社的に行うこととなりますから、いくら小さな組織体といえど大掛かりな作業となります。

トップダウン方式ですから、当然に社内は統一されたシステムとなり、運用、サポートについてもそれなりの体制を持つことが出きることとなります。

たとえば、グループウェアの導入を行えば、当然に社内の標準コミュニケーションインフラとしての位置づけとなりますから、社内情報のグループウェアへの移転も積極的に行われることとなります。社内標準ワープロや社内標準CADも後述する社内情報化プロジェクトチームにより比較的簡単に選定されることでしょう。つまり、トップダウン方式では、社内ルールの確立、標準化の作業が積極的に行われることとなります。

ただし、トップダウン方式では避けて通れぬ命題があります。それは経営者自身が積極的にこの情報インフラを活用することです。

電子メールやグループウェアの導入失敗例でよく言われる例として、部下には使わせても、経営者は電子メールやグループウェアを使いたくない、使えない(できればパソコンにさえも触りたくない)ということが多いのです。これではせっかくのトップダウン方式の情報化も途中で頓挫しかねません。経営トップに近い立場ほど情報化の恩恵を受けやすいのが普通ですし、情報を一番必要としているのも経営トップのはずです。

経営者が自ら率先してデジタル化された情報の活用を行えば、社員は必然的に使わざるを得ないのですから、情報化に対する社員の意識レベルは、経営者のデジタル情報活用如何と言ってもいいでしょう。

経営トップがデジタル情報を積極的に活用する様になれば(たとえば経営者自らが電子メールを活用して社員とのコミュニケーションを行うとか、イントラネットの掲示板に自ら情報を掲示するとか)、情報化取組の導入部分は半ば成功したも同然と考えます。
言うなればトップダウン方式とは、経営者自らの情報化への取り組み以外のなにものでもありません。
■ボトムアップ方式
ボトムアップ方式では、情報化に興味を持った社員(部署)が独自にシステムを導入して、個人若しくはそのグループを中心に情報化を進めていく方式です。

世の中、これだけ建設CALS/ECや建設業の情報化が騒がれていますから、会社の情報化対応が消極的であれば、自分たちがやらねばならないと考える社員が出てきても少しも不思議ではありません。個人レベルでパソコンを業務に導入し、ワープロで書類を作成し、フリーウェアのCADを使う。インターネットもインターネットメールも個人でアクセス権を取得して利用するというような行動をとる社員も当然に存在するでしょう。

パワーユーザー呼ばれるパソコンマニアの社員がいれば、現場内LANや部署内イントラネットの構築さえ可能でしょう。特に部門・部署のリーダーに情報化への意識が強く、経営層に情報化への取り組みへの意識が不足しているような会社ではこの傾向が強いようです。

個人レベル、部署レベルでの情報化=ボトムアップ方式の問題点は、トップダウン方式における社内情報化プロジェクトチームの様な「まとめ役」が無いための無秩序化にあります。
MacintoshとWindowsの混在というような、異なる種類・バージョンのOSの存在
一太郎とワードというような異なる種類・バージョンのワープロの存在
AutoCADとJW-CADというような異なる種類・バージョンのCADの存在

異なるプロトコルによるLANの存在等の無秩序的情報化は、
いざ全社的なネットワークによる情報化=標準化を進めようとしても、LAN間の接続ができない、データの互換性がない等の問題を起こす可能性が非常に高く、全社的な情報化=標準化の大きな障害となる可能性が高いと言えます。

このような社員による草の根運動的情報化を見て、安心しきっている経営者が多いのも事実です。会社としての情報化投資は最小で済んでいますし、一見したところ、社内の情報化は順調に進んでいるように見えるからです。
しかし、それは間違いです。いくら小さな組織体といえども、建設CALS/ECへの対応を踏まえた、社内の標準化を見据えた情報化を進めるべきです。

ボトムアップ方式には、早期の段階で個々の取り組みに対する「まとめ役」の存在が必要なのですが、ほとんどの場合、自然発生的に「まとめ役」が誕生する事はまずありません。
ボトムアップが全社的な情報化まで発展する可能性はあまり高くはないのです。
■ボトムアップ方式の可能性
このような問題点を持つボトムアップ方式ですが、実際には経営陣の理解が得られない等の理由で、ボトムアップ方式による手探り的な情報化を行っている企業は以外と多いと考えられます。さらには、経営陣だけを取り残して社員間では有効に情報化を進展させているケースもあるかもしれません。

しかし、経営陣が参加しない情報化は、いくら社員間で高度な情報化への取り組みを進めていようとも失敗なのです。最終的には、全員が情報化武装する事によってこそ、組織にとって最も有効な情報化が達成できるのは明らかな事です。

ボトムアップ方式での情報化への取組が社員によって自発的になされている企業の場合、その存在をそのまま見過ごしてしまってはなりません。この場合、会社としての統一性のない、標準化の障害となるシステムが社内に散在する前に、経営者の素早い情報化取組への判断が重要となってきます。

早期の段階で、経営者がこれらの草の根運動的情報化を、会社としての情報化の取組と認める(お墨付きを与える)事ができれば、全社的な情報化への取組が一挙に加速する可能性もあります。逆にその判断をしないで置くと、建設CALS/ECとはかけ離れた、社内標準化さえも困難なシステムが社内に蔓延している可能性も高いのです。
■社内情報化プロジェクトチーム
情報化への取り組みは、経営者自ら率先して行うべきだとして、トップダウン方式を推奨する立場を桃知はとりますが、実際には経営者自らが情報化推進役を兼ねるような事はあり得ない事でしょう。

そこで、社内情報化のためのプロジェクトチームを設けることは有効な手段と考えます。メンバーは、経営者は無理としても、なるべく経営トップに近い役員から1名、各部門から(総務・建築・土木・舗装という具合に)情報化に対して前向きな社員を1〜2名ずつ選出して、勉強会方式で情報化への取り組みを行います。オブザーバー的に、情報化の専門家(ベンダー等)を外部から招く事も良い結果を生むかもしれません。この場合、社内の標準化作業は建設CALS/ECの標準化の動向は無視できるものではありませんので、建設CALS/ECに対して理解の深いオブザーバーであることは当然です。

この社内情報化プロジェクトチームについては次回詳しくふれたいと思います。
■経営者の意識改革
今回は社内情報化の手段として、トップダウン方式とボトムアップ方式について述べました。

しかし、いかなる手段を用いようとも、経営TOPの情報化に対する理解無くしては、情報化は会社にとっては何の意味も持ちません。ある程度の情報リテラシイを持った社員を生み出す事はは可能でしょうが、結果的に宝の持ち腐れになる可能性が高いと言えます。情報リテラシイの高い社員を、情報を利用できない経営者が有効に使えるとは到底思えません。

情報化に取り組むに当たって、何よりも大切なことは経営者の情報化意識の向上なのです。
経営者は社員に率先して情報化について学ばなければなりません。
経営者は社員に率先して情報化の理解者でなくてはなりません。
経営者は社員に率先して情報活用のエキスパートでなくてはなりません。

当然のことを言っているだけなのですが、特に中小建設業の場合には、これらを蔑ろにしてしうす経営者を多く見ることができます。故に、パソコンは買った、LANも敷設した、CADも導入した、でも情報システムはいつまでたっても有効に機能しないという事態に陥るのです。

では、最後にもう一つ、中小建設業の経営者に多い勘違いを指摘しておきます。
情報化とは社長自らワープロで書類をつくる、CADで図面を書くと言うことではないのです。
では何なのか? これも次回に説明いたします。

Friday, 01-May-98 14:58:38 

グループウエア
groupware

ネットワークにつながっている複数の利用者が共同作業をするために開発されたソフトウエア。たとえば、スケジュールをメンバーで共有して、調整をしたり、個人のもっている情報を共通の場所に書き込むことで、メンバー全員がその情報を共有したりできるようになる。ロータス社の「ノーツ」はアプリケーショングループウエアの代表的なもののひとつ。

DataPal 97-98 Shogakukan 1997. データパル 97-98 小学館 1997.
フリーウエア
freeware

情報通信/1996年
無料で使用できるソフトウエア。フリーソフトウエアともいう。日本では、法律で著作権を放棄できないため、著作権を保留している点が、パブリック・ドメイン・ソフトとちがう。おもに、個人が製作したゲームやスクリーンセーバーなどのソフトウエアがパソコン通信によって配布されている。また、市販のソフトに匹敵するものも多く、アーカイバのLHAやCAD(キャド)ソフトJW−CADが代表的である。

DataPal 91-96 (Electronic version) Shogakukan 1996. 電子ブック版・データパル 総合版 91-96小学館 1996.


桃知商店
(c) Copyright TOSIO MOMOTI 1998.All rights reserved

ご意見・ご感想をお持ち申し上げております。
pinkhip@dc4.so-net.ne.jp


戻る 著作権