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第4回 社内情報化プロジェクトチーム(1)

標準の概念


前回は、情報化の二つのアプローチ、すなわち、経営トップが情報化の先導に立ち、率先して情報化を進めるトップダウン方式と、現場が率先して情報化を進めるボトムアップ方式ついて述べました。
そして、情報化への取り組みは、経営者自ら率先して行うべきだとして、トップダウン方式を推奨しました。
さらには、実際には経営者自らが情報化推進役を兼ねるようなことは無理があるだろうから、社内情報化のためのプロジェクトチームを設けることを提案しました。
今回から数回にわたり、この社内情報化のためのプロジェクト・チームについての話をします。今回は社内情報化プロジェクトチームの大きな役割となる標準化につてです。
■目的は社内業務の標準化である
社内に情報化プロジェクトチームを設ける目的は、標準の概念を社内に植え付けること、すなわち社員の標準化への意識改革を行うことといえます。
情報システム化には、標準は不可欠なものですが、これが正しく理解されていない場合が多いのです。
たとえば、施工図処理のためCADを導入しようという場合、標準化の社内合意を行わず、今までの属人的なやりかたでコンピュータ化しようとすると、使ってもらえないCADマシンというものが必ず出てきます。極端な場合には、会社指定のCADソフト以外のCADを勝手にインストールして使っているということもあるでしょう。せっかくネットワークを使ったグループワーキングが出来る環境を作ったのに、各々がかってにそれぞれのやり方で仕事を進めている。このような場合、「なぜコンピュータに我々の仕事を合わせなくてはならないのだ」という標準化への拒絶の心理・雰囲気がその組織を支配している事が多いのです。これでは、せっかく導入したコンピュータシステムも大した成果を残せないでしょう。標準の概念の認識不足故の悲劇です。

仕事をコンピュータ化する場合、データを標準化する必要があります。そしてデータを標準化するためには、フォーマットの標準化が必要となります。そしてファーマットを標準化するには業務自体の標準化が必要です。
情報化プロジェクトの第一歩は、標準は組織運営の原理原則であるとの概念を、事前に十分に論議し、必要があれば社員に対して教育を行うこと、そして、標準化に対する十分な社内合意を形成することにあります。
■標準の概念
それでは、標準とはなんでしょう。
標準とは、組織を運営するための共通の規則、決まり、仕組みであり組織運営の公式な原理原則、すなわち組織運営のための公式なシステムです。
それは、企業内の場合には、経営システムそのものです。社員が業務を遂行するにあたっての公式な制度、規定、システム、ルールなどのことです。
社内の情報システム化とは、これらの標準、システムを策定し、コンピュータ化できるものから電子化していく作業に他なりません。
よくCALSはデータを標準化することだといわれますが、確かに業務をコンピュータで行うためには、データの標準化が必要です。しかし、データの標準化にはフォーマットを標準化する必要があり、そのためには、業務そのものの標準化が必要になります。
ですから、当社では全員同じワープロを使っているから、標準は出来ている。は間違った概念です。同じように建設CALS/ECにおいても、同じワープロ、同じCAD、同じ表計算ソフト、同じメーラーを使ったからCALSは完成する。というのも誤った概念です。
大事なのは、業務そのものの標準化であり、標準化する事に対する組織構成員全ての理解です。この理解が深いか浅いかに、その組織体の情報システム化の成功の鍵があります。

■標準へ反感
情報システム化がうまく行かないというとき、組織体構成員(すなわち企業の経営者から現場まで)に、標準の概念への誤解がある場合があります。
標準化、システム化という言葉に対し、建設業界には、なぜか感覚的反発が強い方が多いようです。システムは非人間的で、自らの自由な発送に基づいた活動を束縛するものだ的な感覚を持つ方々がいらっしゃいます。
不本意ながら会社の命令でコンピュータを使って仕事をしているという人も思いのほか多いのです。ひどいのは、本来情報化に対する最大の理解者である経営者までが、情報システムは必要悪だと感じている方もおられます。特に中小規模の建設業の経営者にこの傾向が強いと感じています。
建設CALS/ECがうまくいかなかったとしたら、このような標準、システムに対する感覚的な誤解が原因になるかもしれません。

■標準の理解度の格差
標準に対する理解度は、実は企業間、業種間、企業内部門間ではかなりのレベル差があります。
製造業の組立作業においては、ご存知T型フォードの時代から、標準に対する理解は深く、標準化無くして今の日本の自動車産業等はありえないでしょう。
外食産業であるマクドナルドなどでは、接客まで標準化されています。いつ、どこのマクドナルドにいっても同じ接客、同じ味、同じ値段が保証されています。
自社のノウハウの徹底した社内標準化、それが差別化だといえるでしょう。
ただし、同じ企業内でも標準に対する認識については部門間で驚くほど格差があります。製造部門と間接部門では、間接部門の標準化への理解度は製造部門にくらべ格段に低く、それゆえの生産性の低さは、ホワイトカラーのリストラがいわれる原因の一つとなっています。
我が建設業界はというと、ようやく建設CALS/ECによって、官民ともに標準化に目覚めた段階といえるでしょうか。

このように、うまく標準を使いこなしている企業は、ますますその有効性を認識し、そのノウハウを高め続けていきますし、標準化を理解できない産業、企業、部門は確実に衰退します。

■標準は蓄積されるノウハウ
標準とは、蓄積されるノウハウです。そして、蓄積されるノウハウは、その組織体における資産でもあります。
そして、蓄積されるノウハウは差別化の源です。
BPRの本質は、遺産と資産の分別です。
捨てるべきもの=遺産
蓄積して活用するべきもの=資産
として、社内業務の標準化を行う作業の中心的役割を担うのが、社内情報化プロジェクトチームに他なりません。
経営者側と、すべての業務部門の代表者で構成されるプロジェクトチームを持つことは、標準に対する反発への調整機能を社内に持つことになります。しかし、えてして、情報化プロジェクトは、標準に対する反発の調整をいやがり、業務に関わることには目もくれず、コンピュータシステムの発注窓口化してしまう傾向もあります。
社内情報化チームの最初の仕事は、我々は社内の標準化、すなわち経営システムを構築する機能なのだという自覚から始めなくてはなりません。

以下次回に続きます。

Sunday, 17-May-98 11:21:23 

ひょうじゅん‐か(ヘウジュンクヮ)【標準化】 
1 標準に合わせること。
2 製品、資材などの種類・規格を標準に従って統一すること。
3 記憶などの際、無意味なものの記憶を一定の型に合わせて記憶し、その型に合わせて再生すること。
4 テストの場合、多数を対象に実施して、個々の具体的な成績が平均と比べてどの位置にあるかを指示できるようにすること。

Kokugo Dai Jiten Dictionary. Shinsou-ban (Revised edition) Shogakukan 1988/国語大辞典(新装版)小学館 1988


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