THE pinkhip WORLD    「中小建設業情報化講座」 第6回 |戻る 著作権|   

第6回 ビジネス・センス


前回は、「あるコンサルタント会社の情報化物語」として、熊本県の建設コンサルタント会社に勤務されている大村 裕一様よりのメールを紹介申し上げました。
今回は、前々回からの続きで、社内情報化プロジェクトチームについての話です。
■形だけの情報化
私が行っているCALS度診断へは、多くの中小建設業の皆さんから診断依頼が寄せられていますが、問診表を拝見させていただくと、パソコンの導入はそれなりに進んでいいる反面、私が「社内情報化プロジェクトチーム」と呼んでいる、社内情報化に伴う調整機関を設けていらっしゃならい会社さんが意外と多いのが気になります。
社内情報化プロジェクトチームの様な、調整機関無しの情報化は、行き当たりばったりの情報化に陥りやすく、形だけの情報化に終わる可能性が高いと言えます
形だけの情報化とは、私が、本講座の第3回で指摘した、ボトムアップ方式にる情報化とさして変わらない弊害をもたらす情報化であり、システム自体の存在価値の無い、使えない情報システムのことです。
■トップダウンの悲劇
中小建設業に限ったことではありませんが、トップが強い統率力を持つ中小規模の組織では、社内情報化プロジェクトチームを設けずに、トップダウンだけで情報化が行われるケースがあります。
このような場合、トップが頼るのは、多くの場合ベンダーということになり、ベンダーにまかせっきりの情報化が行われることが多々あります。
ここで問われるのはベンダーの質なのですが、全てではありませんが、中小規模の建設業の特質を理解できているベンダー、SI、SEは、非常に少ないのが現状です。多くの場合、町の事務屋さんに毛の生えた程度といても良いぐらいしか、中小建設業の業務を理解できていないのです。

例えば、建設業界への情報化市場に参入しているアプリケーションメーカーの多くは、財務、CAD、積算、構造計算等の、建設業のある一面に特化した専門メーカーです。それゆえ、専門的な部分に関してはそれなりの効果をもたらす製品を提供していますが、どれも経営全体をトータルにマネジメントするようなアプリケーションではありません。全て単なる部品にすぎません。
多くのベンダーが提供する、このような部品的アプリケーション導入中心の情報化は、中小建設業の本質を知らないベンダーが行うと、木を見て森を見ない情報化の典型となる場合が多いのです。

建設業における情報化の本質は、「企業文化の変革」であることを忘れてはなりません。
「建設CALS/EC」の根底にあるものは、「オープン(解放性)」「ボトムアップ(平等性)」「ボランティア(自律性)」といった、いわば「グラスルーツ(草の根)」の文化です。この文化は、これまでの建設業の特徴であった「クローズ(閉鎖性)」「トップダウン(階層性)」「オーダー(他律性)」といった文化とは、本来相容れないものであることは本講座第1回で申し上げました。

つまり、自社の企業文化の変革に対する努力はしないで、
パソコンは社員全員に買い与えた。
ベンダーがこれさえいいれれば大丈夫という、CADも、積算ソフトも買って与えた。
社員の皆さん、さあ、どんどん使ってください。
私はなんと情報化に対して理解のある経営者なんだろう。
(使えないのは社員の努力が足りないからで、私のせいではない)
この様な情報化では、意味が無いということです。結局、使えない情報システムとリース料の支払だけが残ります。「建設CALS/EC」への対応など、どこかへ飛んいってしまいます。
これなら、ボトムアップでの情報化の方が数万倍効果はあります。

■ベンダーの言い分
一方、「中小建設業者は本当に情報化武装する意識があるのか疑問である。」、「中小建設業は市場として成立するとは思えない。」という様な話を、アプリケーションメーカーやベンダーから受けることがあります。
確かに、現況はそう見えるのかもしれません。
この原因は、中小建設業経営者の情報化に対する理解不足、責任逃れ的意識もあるでしょうし、ベンダーの力不足、アプリケーションメーカーの旧態依然とした体質にもあるかもしれません。むしろ、これらがお互いに作用し合い、ベンダー側から見れば、中小建設業の経営者は、情報化に対して少しも積極的ではないと見えるでしょうし、経営者側から見れば、情報化などと言われても何から手をつけてよいのか分からない上に、ベンダーに情報化を一任してまうのも不安がある、というようなお互いの理解不足故の悪循環から逃れられないでいるように思えます。
私は、この悪循環の環からの脱出の鍵は、社内情報化プロジェクトチームにあると考えます。

■ビジネス・センス
 「建設CALS/EC」時代に活躍できる中小建設業者のキーワードは社員の自由な「想像力」と「創造力」に基づく「知識」と「知恵」を生み出す「企業文化」です。
自社の情報化の過程においても、この社員の自由な「想像力」と「創造力」を発揮出来る体制をつくらなければなりません。その第一歩が、私のいう「社内情報化プロジェクトチーム」なのです。

私は、十数年ほど前に、システム監査についての勉強をしていました。当時、システム監査人を育てるには、SEを教育していけば良いのか、監査人から育成していけば良いのか、という問題がよく話されていました。
当時のノートを見ると、先輩からのアドバイスが次のように書かれています。
SEにしても監査人にしても、トップマネジメントと対等に話が出来るだけの「ビジネス・センス」が待てるかどうかが問われる。
この「ビジネス・センス」がなければシステム監査は出来ない。
この「ビジネス・センス」がないと、たとえシステム監査をやったとしても、システム監査のある一部分のスペシャリストにとどまってしまう。
20代のころ、しっかりと現場の現業をこなし、会社が何をやっているのか、どのような方向に進もうとしているのかということを、身体で覚えておきさえすれば、あとはコンピュータの技術的なことと監査を勉強すればいいのだから、難しいことはない。
「ビジネス・センス」=「マネジメント・センス」
私は、この「ビジネス・センス」こそ、中小建設業の情報化において最も大切なものだと思います。
そして、皆さんの会社にも、若い頃から現場の現業をしっかりとこなし、会社が何をやっているのか、どのようの方向に進もうとしているのかを理解されている「ビジネス・センス」をもった社員さんは必ずおられるはずです。
多くのベンダーに、中小建設業に対する、この「ビジネス・センス」を求めるのは酷な話だと思えます。ベンダー主導型の情報化が、形だけの情報化に終わる場合の最大の原因は、ベンダー側に、この「ビジネス・センス」が欠如しているためです。しかし、コンピュータや情報化の技術的なことは、ベンダーは当然よく知っています。
「ビジネス・センス」を持った社員で構成される社内情報化プロジェクトチームが、必要とする技術的知識を補うために、オブザーバー的にベンダーを活用する社内情報化ができれば、お互いの立場は明確であり、スリムな効果的な情報システムの構築が可能だと言えます。
トップがベンダーに頼りきりで行う情報化のどちらが効果的であるかを、今回はご理解いただければと思います。

「知識」と「知恵」に基づく「企業文化」の想像こそ「差別化戦略」、「コア・コンピタンス経営」の源です。

Sunday, 07-Jun-98 08:53:33


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