THE pinkhip WORLD  「中小建設業情報化講座」  |戻る 著作権|    

第2回 情報化の目的


■OA化・情報化レベル
 長門昇氏によれば建設業におけるOA化と情報化を、OA化とはOA機器の導入など、もっぱら業務効率の向上が注目される。一方情報化は情報利用効率の向上が注目されるとし、そのレベル差を以下のように分類しています。(引用1)
1・擬似的OA化レベル OA機器が自由に使える作業環境は整っているが、パソコンもほとんどワープロ用に使っている。
2・OA化指向レベル 事務的な作業はほとんど手作業をやめ、労働生産性を向上させている。
3・情報化指向レベル 作業者の労働生産性だけでなく処理対象の情報自体の生産性向上を目標としている。
4・高度情報化レベル 他企業などとの情報連携を最大限にとりながら、一般事務、設計、積算や受発注、資財、工程、労務、品質、原価などのムリ、ムラ、ムダの徹底的な排除を追求している。
この分類を桃知なりに解釈すると以下のようになります。
レベル1 パソコンが社内に導入され、契約書や施工計画書などの文書作成業務が行われているレベル。
しかしネットワークは未整備、ようやく個人レベルでの業務処理の効率化に目覚めはじめた段階。
レベル2 個人レベルでの業務処理の効率化が進んでいる段階。
会計業務や給与計算等の勘定系の業務、CADでの図面作成、表計算ソフトの活用、データベースソフトの活用が行われている。
LANも整備されている場合が多く、文書やCAD部品等のデータの蓄積・共有化を推進しているが、社内の標準化作業や情報システムを利用した業務プロセスの改革への取り組みはこれから。
レベル3 CALS的社内情報化推進レベル。社会的な標準を視野に入れた社内的な「標準化」作業が推進されている。
整備・蓄積され続けるネットワークとデータベースを基に、それを活用できるような組織、業務プロセスの改革(リエンジニアリング)への取り組みを積極的に行っている。
電子メールやイントラネットの活用もおこなっている段階。
レベル4 CALSの世界!
■合格点は「レベル2」
 中小建設業の現況をみると、現時点で「レベル2」若しくは「レベル1」〜「レベル2」の間位まで自社の情報化推進を達成できている企業は合格点といえるでしょう。しかし、実際にそのレベルまで情報化・企業としての意識改革が進んでいる例はほんの一握りに過ぎないはずです。
 中には「レベル1」の段階さえも達成し得ない状況、つまりパソコンを自由に使える作業環境さえ整っていない企業が多いのが現実だと思います。情報化は時代の必然であることは、いまさらここで述べる必要も無いほど様々な機会に言われ続けています。しかし、自社の建設CALS/EC・情報化への対応は遅々として進展していいないという皆様におたずねいたします。それはなぜでしょう?
 もし、経営者様に全くその気が無いというような答えでしたら、それはどんなに優秀な社員、コンサルタント、ベンダーがついていても馬耳東風、暖簾に腕押しですから、この場合には経営者としての資質を疑うべきで、CALSの世界とは無縁の方だと判断するしかありません。建設CALS/ECについてはあきらめて、別の手段での生き残りの道を探していただくしかありません。この講座をもう読む必要もないでしょう。
 しかし、経営者様が少しでも情報化についての意識をお持ちでしたら、情報化は決して未知なる魔境ではありません。是非このまま続けてお読みください。もしかしたら何かのお役に立つかもしれません。
■CALSの本質
 では、CALS(情報化)への対応策を考える前に、CALSの本質について考えてみましょう。CALSの本質は「情報システム活用による、企業内および企業間の業務プロセスの徹底した合理化と高付加価値化」といえます。
 そのためには、まず情報を取り扱うための情報の「標準化」への取り組みが必要です。「標準化」の活動が行われて初めて「標準化された情報」を取り扱うための「情報システム」の整備・活用が行われる事となります。「情報システム」の活用はさらなる情報活用の合理化を求め「情報システムを活用した業務プロセスの抜本的な改革」=「リエンジニアリング」の必要性を組織に対して要求します。社内的にそのような合理化と高付加価値化を行っている企業間による経済活動は当然に経済システム自体を変化させ、徹底的に合理化を追求した新しいルールでの経済活動がおこなわれる事になります。その概念こそが目的としてのCALS=「情報システム活用による、企業内および企業間の業務プロセスの徹底した合理化と高付加価値化」と考えます。すなわち、「標準化」も「情報システム」も「リエンジニアリング」も「目的」ではなく「手段」「道具」であるということです。
■「レベル1」以下からの情報化対策
 さて、本来、建設CALS/ECへの対応を視野に入れた情報化とは「レベル3」の活動をいいます。これはCALSの本質を踏まえた情報化レベルといえます。このレベルの企業であれば建設CALS/ECへの対応は十分に可能でしょうし、さらなる差別化戦略を構築し得る、競争力を持った環境にあるといえます。
 しかし、現時点で自社の情報化が「レベル1」、若しくは「レベル1」にもあてはまらない場合でも悲観する必要はありません。今すぐ行動を起こすことによって、建設CALS/ECへの対応は十分に可能であると考えます。
建設省直轄事業における建設CALS/ECアクションプログラム(要約)によれば、フェーズ1(1996〜1998年)での「実現内容」には 事業に関連する情報の伝達・交換を電子メール化 ・電子媒体又は電子メールによる申請・届出・調達関連情報のホームページ掲載・調達情報に関するクリアリングハウスの構築が掲げられています。
 自社の情報化の一つの「指針」としてこのアクションプログラムを活用することはとても良い方法だと思いますが、「レベル1」以下の会社の場合、フェーズ1の実現さえ、とうてい乗り越えられない高い壁に思えるはずです。きっかけさえもつかめない状態かもしれません。しかしあきらめてはいけません。極めて有効と思える考え方があります。
 それは、「自社の情報化の目的を情報システムの導入(手段の確保)と意識する」ことです。
 具体的には、アクションプログラムのフェーズ1での実現内容への対応、すなわち、電子メールやイントラネット、もちろんパソコン、LAN等の「情報システム」の導入その事自体を目的とすることで、一挙に「レベル3」付近まで自社の情報化レベルを引き上げる作業をはじめることができます。
 しかし、これは今までの文脈では本末転倒な情報化であることに気づかれた事と思います。実はその通りなのです。CALS(情報化)の到達すべき「目的」とはCALS(情報化)による自社の市場での優位性の確保(差別化)=利益の確保=企業の存続に求められるものであり、「情報システム」の導入は「手段」にすぎないからです。しかし、現実にはこの「手段」を「目的」とした情報化にしか、中小建設業の建設CALS/ECへの対応手段はあり得ないと考えます。
 経営者様が先頭に立ち、社内的な「情報システム」の整備(手段)を「目的」とする事で、
導入された「情報システム」がうまく機能するためには、どのように自社の業務プロセスを改善したらいいのだろうという問題意識を全員が持つことが可能となります。言い換えれば、社員の自由な「想像力」と「創造力」に基づく「知識」と「知恵」を生み出す「企業文化」を作り出す作業を開始する事が可能となります。この「知識」と「知恵」こ基づく「企業文化」こそ「差別化戦略」、「コア・コンピタンス経営」の源だと第1回の本講座で指摘しました。非常に強引なやり方に見えますが、この今まで自社に存在しなかった「新しい意識の芽生え」において、リテラシイの問題、リエンジニアリングの問題さえも短時間にクリアしていくことが可能であると考えます。
 幸いにして中小建設業の組織の小ささは情報化において非常に有利に働くと考えます。初期設備導入費用も社員教育にかかる費用も運用のための費用も、各ベンダーの努力によって格段に安く済ませることが可能な時代にもなってきました。社員の情報化に対する意識の向上は大手企業の数倍のスピードで進むと考えます。
まずは、情報化を意識すること、そして実際に自分でやってみること、そしてやりながら変革していくことです。
次回は、この情報化手段での問題点とその解決策について考えていきます。

Sunday, 19-Apr-98 11:05:24 

【引用1】】
「よくわかる建設業」長門昇著 日本実業出版社
【リエンジニアリング】 business process re-engineering
企業を根本からかえる業務革新のこと。80年代に「ひとり勝ち」した日本の先進的製造業からアメリカが学んだ「日本的経営」のアメリカ流解釈による経営手法でもある。企業の提供する品質、サービス、コスト、素早さなどの要素を、根本的、抜本的、劇的にプロセスからデザインし直すこと、とされる。。情報技術もフルに活用して業務プロセスからムリ、ムダ、ムラを取り除き、迅速に顧客ニーズにこたえられる体制に脱皮する。導入企業としてアメリカではクライスラー、GE、TIなどがあげられ、日本では松下電器産業、花王などが成功例といわれる。
DataPal 97-98 Shogakukan 1997. データパル 97-98 小学館 1997
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