「中小建設業情報化の為の5つのポイント」 その1   


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その1 「経営トップのリーダーシップ」



■経営トップが握っている情報化成功の鍵

社内情報化の取組みは、何よりもまず経営者のトップダウンにより行われます。なぜなら、情報化への取組みとは経営の問題以外の何物でもないからです。

情報化を経営の問題として考えられない経営トップは、「デジタル革命」を乗り切ることを既に諦めているとしか思えませんし、経営における意思決定の最高機関としての立場を、自ら放棄しているとしか思えないのです。

経営トップは、社内情報化推進にあたり、自ら将来ビジョンを全社員に提示し、現在進行中である「デジタル革命」を共に乗り切るべく「情報化への取組み宣言」をしましょう。
情報化は、経営者が自ら率先して取組むべき問題です。

経営者が率先して情報化への取組みを行うことは、たとえば電子メールの普及では、絶対的な威力を発揮します。
経営者が自ら電子メールによる情報伝達を行うことになれば、社内の誰もが、経営者からの電子メールを見過ごすわけにはいきませんから、電子メールは瞬く間に社内に普及することとなります。

■顧客指向の情報化ベクトル

さて、経営者が自ら情報化に取組む姿勢があったとしても、その経営者の情報化のベクトルがどこに向けられているのかが問題となります。

情報化は経営トップのトップダウンで推進されていきますから、経営トップは自らの情報化のベクトルを、常に顧客指向の外向きのベクトルとして保つ必要があります。
つまり、(管理というよりは)マネジメント(経営)能力を発揮させる方向は、常に「市場」に向けてであるということです。
公共事業が中心の建設業者の場合、この意識に欠けている会社組織が非常に多いのです。

コアコンピタンス経営に必要な情報とは、「市場」・「顧客」から発せられた情報です。この情報を見逃してきてはいませんでしたでしょうか。
この意味では、一番顧客に近いところにいる社員からの情報、もしくは市場からの情報が直接、「正しく」、「早く」流通する情報システムの構築が必要となることは理解できると思います。

最優先されるべきは、「市場の要求」であり、社内に存在する既存の慣習や組織の維持拡大ではありません。
それらは「市場の要求」に従って、より情報が流通しやすい方向へと柔軟に変化するべきものとの理解が必要です。

経営トップが内向的な管理指向の情報化ベクトルを持つ場合、組織はその内向的な情報化ベクトルに沿って機能し、結果的には、人による人を管理するための情報化の域を脱しきれません。
管理指向のベクトルの視野には、「市場の要求」や「顧客」は決して見えていないのです。
むしろ、既存の組織や慣習をそのままに、形骸的に情報化しようとする傾向さえ増強しかねません。

そのような内向的な意識が支配的な組織では、情報化に伴う業務改善などは行われるはずもありません。
業務改善が必要だという発想さえもされるはずが無いのです。

経営トップ自らが提示する情報化ベクトルとは、自社のコアコンピタンスは常に「市場の要求」の中に存在すると理解し、顧客指向の情報化にコアコンピタンス経営の確立を行うという「経営の指針」です。

■経営トップは自らコンピューターを使おう

来るべき「情報社会」、現実に起きているといわれている「デジタル革命」にいおいて、経営における「情報」の持つ価値は、旧来の経営における「情報」よりも数段に高く、しかしより得やすくなっていると考えましょう。

経営トップは最高意思決定機関ですから、そこに集まる情報も、組織内で一番量的に多くなることは当然です。
経営トップは、情報を事前にフィルターにかけることなく、収集し、整理し、理解し、分析し、加工し、統合し、方針を表明しなくてはなりません。

情報社会は情報過多の世界です。経営トップにはあらゆる情報がカオス的に集中することになるでしょう。
故に、これを最速かつ最適に処理可能とする「技術」と「能力」が必要とされます。その技術が「情報技術」なのです。

即ち、経営トップは、組織内の誰よりもコンピューターを使ってマネジメントを行う必要があります。
そして、経営トップは、コンピューターを使って、マネジメントを行うことを全社員に向けて宣言しなくてはなりません。

経営者が、自ら経営にコンピューターを活用するという意識を持ち、それを実践しなければ、情報化は「絵に描いた餅」に終わらざるを得ないでしょう。

98/12/17
00/07/04 一部改訂



【補足  「民間工事をターゲットとしている中小建設企業はむしろ幸せである」】 ▲文頭へ

今回の改訂作業で、全部書き直そうとしたのが実はこの章であるが、今回はほとんど手を加えることはしなかった。
ただ一言書き加えるとすれば、以上は(現状では)「民間工事をターゲットとしている(しようとしている)中小建設企業の皆さんへの提言」である。

問題は建設CALS/ECが対象としようとする公共事業市場のルールにある。
特に地方自治体発注の公共事業市場のそれは閉塞感に満ち溢れている。

自治体発注の土木工事を主な生業としている(公共工事依存型の)中小建設企業の経営者に対して、差別化とコア・lコンピタンスの経営戦略がどの程度の説得力を持つのかの答えを考えると、途端に途方にくれてしまう。

公共事業の市場を「技術と経営に優れた企業が伸びられる透明で競争性の高い市場環境の整備」と謳った「H10.2.4 中央建設業審議会建議」は、それこそ私が唯一頼りにしている建設政策なのだが、これとてどの程度まで地方自治体が理解しているのか甚だ疑わしい。

「建設産業再生プログラム」で大手企業を、「専門工事業イノベーション戦略」で中小専門工事業に対する考え方を提示している建設省さえ、こと地場型中小建設企業になるととたんにトーンダウンしている現状がある。

この市場を支配している経済ルールは配分のルールといえるが、このルールが支配的な市場に支えられている建設企業の経営者に対して、情報化による優位性を知らせることは極めて困難な作業となる。

なぜなら、その市場は、差別化やコア・コンピタンスの思想そのものが不要なのである。
それに対して、情報化はトップダウンでという主張を繰り返したところでコミュニケーションは成立し得ない。

つまり、議論のための共通の言語は、この文脈(配分ルールと情報化の関係)には持ち得ないのであり、建設CALS/ECの閉塞感はここに極まるというのが私の現在の率直な意見である。

故に、この議論(公共事業において差別化とコア・コンピタンスの経営思想は本当に不要なのか)は、その議論の場を他に移らざるを得ないと考えるが、それは、建設CALS/ECや情報化の議論を逸脱したもののようにも見える。

しかし、我々が情報化の対象とみなしている公共工事(つまり建設CALS/EC)への議論、考察である限り、それは建設CALS/ECの議論として成立しえると私は思う。

尚、以下の駄文も参考としていただきたい。
 →【最近の私の憂鬱】
 →【逆説的最近の私の憂鬱】

00/07/05 追加

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