「建設業情報化の為の5つのポイント」 その2   


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その2 「情報化への組織的な取組み」


■情報化プロジェクトチーム

「情報化プロジェクトチーム」の大きな役割は社内標準の為の合意形成です。

情報化はまずトップダウンで始まることは「その1」で述べた通りですが、経営トップの強力なリーダーシップ(顧客指向のベクトルの維持)の基、選抜メンバーによる情報化プロジェクトチームを組織し組織的なボトムアップ作業を行うことも必要です。これはどちらも欠くことのできない情報化における車の両輪です。

多くの中小建設企業の場合、最初からボトムアップ的な情報化を許してしまっているというのが実情でしょうが、これは部署や部門や現場毎の異なる標準を勝手に設ける可能性が高く、全社的なネットワーク構築を行おうという段階でインテグレーション不能の状態に陥る、つまり最も情報が必要な処へ全社的な情報が流れない、部門や組織の壁を越えた情報化が実現出来ない状況を招きかねません。

情報化が経営戦略とされながらも、経営者自らがリーダーシップを取れず経営者をサポートするための情報化プロジェクトチームのような機関が存在しないと、つまり全社的な組織的情報化が行われないと、生半可な知識の一社員に経営戦略である情報化が一任されてしまう恐れがあります。

さらに経営者に情報化への理解が無い等の理由で組織的な取組みが始まる様子も見えないと、社員は自腹を切ったり現場経費を都合したりでそれぞれ勝手なシステム構築を初めてしまう事例も多々見受けられる事です。

この様な事例では一個人による独善的なシステムが蔓延り、標準選定を誤り、ベンダー任せの情報化等、全社的な情報化をしようとしても、組織や部門の枠を越えたデータ交換が不可能な孤島のようなネットワークが社内に多数存在していることが多いのです。これでは何も無い方がずっとましです。

情報化推進には経営トップのリーダーシップとそれをサポートする情報化プロジェクトチームの存在は絶対的な必要条件です。

■セクショナリズム

情報化推進活動はほとんどの場合総論賛成、各論反対だと考えましょう。
多くの部門の責任者は一応に全社的な情報化、標準化には賛成の姿勢を示します。しかし自分の部署(強いては自分)だけは特別だと思っています。自分(若しくは自分の部署)は特別だという意識、つまりセクショナリズムを嫌というほど見せていただけるのが情報化だとも言えます。

これは全ての組織において組織の特性として存在する現象であり、情報化における最大の障害であり続けています。情報化とは組織的な人間的な障害除去の作業であり、情報化による効率化とはこの作業をして結果的に得られるものでしかありません。

この総論賛成、各論反対への最も有効な施策が経営者の強力なリーダーシップと、全社、全ての部署、全ての個人を情報化・標準化のムーブメントへ巻き込むための情報化プロジェクトチームの存在だと理解出来るでしょう。

情報化指針は経営トップと情報化プロジェクトチームが決定すします。それ以外の決定事項は決して存在しないという合意形成が情報化成功の道です。つまり、情報化は標準化の作業であり合意形成の作業でありこの文脈において組織内の個人の自由は組織によって決定された標準に優先されることは決してありません。

■標準ということ

建設業経営において最も大切でありながら最も軽視されてきたものはコミュニケーションでしょう。その多くは経営層と社員、社員と社員のコミュニケーションの欠如です。
コミュニケーション無き経営ありえませんし、現代の経営が常に志向し続けているものとは(社内ばかりでなく顧客との)コミュニケーションの確立です。
コミュニケーションの本質は共通言語(手段)での意思の疎通であり、この共通言語(手段)が標準です。

■合意形成

情報化にあたって、組織内の全ての部署、役職、個人で合意されるべきものとは以下の三点です。

 1. 情報化の重要性と必要性と緊急性に対する合意形成
 2. 社内標準の整備・使用に対する合意形成
 3. 業務プロセスの変革に対する合意形成

◇1.情報化の重要性と必要性と緊急性に対する合意形成につて

どんなに小さな組織でも、社内情報化、CALSへの準備、標準化の作業とは合意形成の作業であり、そこにおいて第一義的に必要な合意形成とは「情報化の重要性と必要性と緊急性に対する合意形成」です。
これはどうしたら全ての社員が例外なく情報化に対するポジティブな姿勢を持ち得るのかという事であり、ここでは経営者自身の姿勢と自らの資質(リーダシップ)そして今まで築いてきた御社の組織的風土そのものが問われることとなります。
情報化進展スピードの個体差(各社でスピードが違う)はこの要因に支配されています。

◇2.社内標準の整備・使用に対する合意形成

社内標準の整備は徹底して行われる必要があり例外を設ける必要はありません。
また建設CALS/ECとの整合性を意識して標準化を先送りする必要はありません。現在の代表的なアプリケーションを使用している限り殆ど心配する必要は無いと言えるでしょうし、建設CALS/ECの標準を意識するあまり自社の社内的な情報の流通を混乱させるほうが、建設CALS/EC対応の根源である差別化とコア・コンピタンスの経営の実現と言う視点からは大いに問題があります。
建設CALS/EC対応の本質はデータの標準を越えたところにあると理解しましょう。

◇3.業務プロセスの変革に対する合意形成

成果品としてのデータの標準化は標準化されたデータを生み出すという過程で業務プロセスの標準化を要求します。
これは標準化による業務プロセス改善であり、情報化が経営の効率化を促進すると言われる所以です。
しかし、ここにおいて情報化は暗礁に乗り上げることも多いのです。その要因はセクショナリズムやモラルハザードといった、組織的人間的な障害であり、ここにおいて情報化は単なる情報技術的なものではなく、極めて経営的な対応を求めてくる事となります。

■情報化キーマン

建設CALS/ECに対応した情報システムとは勘定系のシステムではありません。むしろ勘定系以外の部分の情報化を志向する情報システム構築こそが建設CALS/ECへ対応出来るものであると理解される必要があります。
それは顧客志向の情報化と言った時の市場の要求を我々に伝えてくれるものとは何か、市場の要求を最も多く獲得できる処はどこかという疑問への回答です。

この意味において従来の基幹系情報システムのお守をしていた「情報システム部」が、建設CALS/ECに対応した情報化のリーダーになり得る可能性はきわめて低いかもしれません。建設CALS/ECを見据えた情報化のキーマンとは実際の業務に携わっている社員の中にこそ存在します。情報化キーマンの選択を誤ってはいけません。

最初の問題はこの勘定系以外の部分の情報化が、現代の経営において如何に重要且つ緊急性を要する戦略であるかを経営者自身が理解できていないことです。そのような経営者の下では、情報化キーマンは単なる情報便利要員として不遇の日々を過ごすことになるでしょう。

最初の情報化キーマンは情報化プロジェクトチームのメンバーかもしれません。故にこのメンバーは自社の対デジタル革命(IT革命)に対する最も優秀な戦力なのであり単なるパソコンオタクの集団ではありません。
パソコンに対する知識よりも、むしろ業務への知識、情報化へのポジテブな姿勢こそ評価され選任されるべきなのです。
尚、以下を参考として読まれることをお薦めいたします。

→参考: (旧)中小建設業情報化講座『第2回 情報化の目的』
      (旧)中小建設業情報化講座『第3回 トップダウンとボトムアップ』
      (旧)中小建設業情報化講座『第4回 社内情報化プロジェクトチーム(1)』
      (旧)中小建設業情報化講座『第6回 ビジネス・センス』

00/07/09 一部改訂

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