桃論―中小建設業IT化サバイバル論

なぜなら、政府自体がGC空間の「第Ⅳ象限」、「ノングローバル指向＋ノンコミュニティ指向」の空間に位置するものだからです。日本政府に限らず、一国の政府という「ヒエラルキー・ソリューション」の担い手は「第Ⅳ象限」に位置しています。グローバルな存在でもなくコミュニティ性も薄ければ、インターネット社会ではその問題解決能力が及ぶ範囲は自然と限られてしまうしかありません。つまりインターネット社会は「小さな政府」を指向してしまうということです。（金子,2002,p103）

マーケット・ソリューション

一方、「グローバル指向」の空間に位置するのが「マーケット・ソリューション」による経済的解決です。これは、「ヒエラルキー・ソリューション」の力が落ちてきたことで台頭してきた問題解決方法ということもできますが、インターネット社会の特徴から見れば、この問題解決方法の台頭はある意味当然のことでしかありません。なぜなら、この問題解決方法は、インターネット社会の二面性のひとつであるG軸側に足場を持つものだからです。インターネット社会における「マーケット・ソリューション」は、インターネット社会のグローバルな方向性に足場を置きながらその正当性と影響力を主張することになります。

しかし、現実には（インターネット社会という新しい環境では）このふたつの問題解決方法のいずれによっても、うまく問題解決ができない場合があることがわかってきたのです。本書が取り上げる「公共工事という問題」はこの典型的な事例でしかありません。

公共工事における問題解決方法の閉塞

例えば、「公共工事という問題」に対して、日本政府や自治体が「ヒエラルキー・ソリューション」という問題解決方法を用いて今までやってきたことは、地場経済の活性化と雇用の確保を名目に、財政発動をして地方に公共工事をばら撒き続けることでしかありませんでした。そして今、その経済的効果への疑問、そこで発生している利権や惰性への批判が公共工事批判をさらに大きなものとし、「公共工事という問題」をますます解決の難しい問題としています。

これに対して、日本政府や自治体が「マーケット・ソリューション」側に問題解決方法をシフトさせていることでおきていることといえば、自治体発注の公共工事に「制限付き一般競争入札」のような、中小建設業の存在意義そのものを否定しかねない調達方法を一方的に突きつけてくるような事態でしかありません（この問題はさらに複雑です。これについては後述します）。

今のところ、中小建設業にとっては、「公共工事という問題」に対する問題解決方法がこのふたつの問題解決方法のどちらに振れても、自らが抱えている根本的な問題を解決できるものではなくなってしまっているのです。

「公共工事という問題」に対するこのふたつのアプローチからの問題解決方法は、結局ふたつの極をメトロノームのように行ったり来たりしているだけで、根本的な問題解決方法にはなってはいません。この原因は、このふたつの問題解決方法の共通項にあります。それはどちらも「C軸」「コミュニティへの方向性」に基盤をおいていないということです。「ヒエラルキー・ソリューション」の場合は権限を「上層部」に委譲することで、「マーケット・ソリューション」の場合は需要があるということを絶対視することで、どちらも個人と問題を切り離して問題を解決しようとしているからです。（金子,2002,p151）

しかし、インターネット社会を理解するときに、個人と問題を切り離して問題解決方法を考えてしまうと、「私の身の上ばなし」にあるような、その深層にある個人の精神的な変化を反映させたものとなることはできません。私の内なる変化は「ヒエラルキー・ソリューション」でもなければ「マーケット・ソリューション」でもない方法でもたらされたものなのです。それが「コミュニティ・ソリューション」であるというのが私の理解なのです。

Written by : 2007年09月17日 18:54: Newer : Older