「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson17 公共工事ダメダメミーム(1)―安心の担保の限界と信頼の崩壊の原因

安心の担保

「配分のルール」に依存した公共建設市場において、所属団体や、OBさんの有無や、政治的な活動とかが、あたかも広義の技術のミームのように機能しているとすれば(現実には機能し続けてきたのですが)、それはこの市場が「内集団ひいき原理」によって維持されてきた集団主義的性質をもった市場であることを自ら証明してるだけでしかありません。

所属団体とか、OBさんの有無とか、政治的な活動とかは、内集団ひいき原理の働く集団で自らがその構成員であるための「安心の担保」なのです。それらは、第一義的には集団主義社会の構成員である証(あかし)として機能します。しかし、この横並び意識の強い、人とちがったことをしない、という「自己隠蔽傾向」の強い集団で、自らが集団の構成員であることを維持しながら、「よそ」よりも少しでも優位に多く仕事を確保しようとすれば、結局は人とちがった行動をしなくてはなりません。つまり、この集団の中でも「よそ」と同じことをして、配分を待っているだけでは、自らの受注優位は確保できないのです。ただ、その「よそと違った行動」が掟破りにならないようにする必要はあります。

そこで、「安心の担保」の提供者と自らとの関係を深めることによって、集団内での競争優位性確立を図ることになります。この「安心の担保」の提供者と自らとの関係の深さは、そのちがった行動の安全性を保証しながら、なんらかの差別化された特典を自らに提供するような機能も果たす効果を期待されることになります。つまり、ここでは、集団内での優位性確保の競争がおこなわれることになり、その基準は「安心の担保」の提供者と自らのとの関係の深さによって決まる、ということです。

配分のルール」という「ヒエラルキー・ソリューション」が機能する公共建設市場では、権限と統制力を持つ第三者、つまり「安心の担保」の提供者への「意図に対する信頼」の依存度(つながりの深さ)によって、競争優位性が決まる、というような市場環境が生まれます。それが個々の企業をして「安心の担保」を「コア・コンピタンス」にように思わせているのです。ですから、「安心の担保」は、業界内では他社との差別化の要因として機能してきたのです。

たとえば「天の声」と呼ばれるものがあります。天の声が機能するような状況があるとすれば、この「内集団ひいき原理」の働く集団の構成員には、「天の声」の主が含まれている、ということでしかありません。私が本来の「談合」とは違うと批判している「官製談合」も、「安心の担保」の文脈で機能しているに過ぎません。

つまり、公共建設市場の「配分のルール」という「ヒエラルキー・ソリューション」は、中小建設業、政治家、地方自治体を構成員とする「内集団ひいきの原理に従って集団内部で人々が協力し合っている集団主義社会」(以下、「地場型公共工事集複合体」と呼びます)のルールでしかなくなってしまっていることで、「公共工事ダメダメミームにさらされているのです。さらに付け加えれば、このルールの最大の欠点は、この「安心の保証」のシステムが、市民社会とのコミットメント関係の形成においては、全く逆の機能、つまり、信頼の崩壊の原因としてしか機能していない、ということなのです。

「天の声」
流行語部門・銅賞
受賞者:受賞対象者が拘留中のため保留
政・官・業の腐敗構造はますます深刻化している。1993年は“談合”によるゼネコン汚職が問題化した。自治体の公共事業を、業者間の談合で入札企業を決めていたというもので、この際、地方首長の意向を「天の声」と呼称していたという。本来の用法と異なり、隠語として「天の声」が多発されていたとなると、もはや立派な新語と解釈するしかないとした。(『現代用語の基礎知識2001』 自由国民社より引用)

山岸俊男は、現在の日本社会が直面する問題を、「信頼崩壊」の問題としては考えていない、といいます。そうではなくて、これまで「安心」を提供してきた集団主義的社会の組織原理が、機会費用の増大というかたちで高くつきすぎるようになったことが生み出した「安心崩壊」の問題だと考えている、というのです。(山岸俊男,『安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)』,1999,p237-238)。次に山岸の意見を引用しますが、「公共工事ダメダメミーム」が形成される背景には、このような専門家の意見があることも理解できるかと思います。

これまでの日本社会では、コミットメント関係の内部で情報を共有しながら外部に対しては情報を漏らさないというやり方で関係を安定させ、その内部で社会的不確実性を低減してきました。情報開示と政治や社会的諸制度の透明化は、まさにこの正反対のやり方で社会的不確実性を低下させ、安心の提供をはかろうとするものです。

前者のやり方の典型的な例としては、公共工事の参入に際して不確実性を低めるためには、企業間で談合を行ったり、特定の代議士の後援会に加入して地域ボスと密接な関係を保つ建設業者のやり方があります。

これに対して後者の方法による不確実性の減少は、公共工事への参入に際してすべての障壁をとりはらい、意思決定過程がすべて透明に行われる場合です。この場合には談合や政治家との結びつきによってもたらされる確実性の保証は存在しませんが、客観的基準以外の理由によって理由によって契約が恣意的に拒否されるという意味での不確実性は存在しなくなります。(山岸,1999,p245)

Written by 桃知利男のプロフィール : 2008年04月03日 00:45: Newer : Older


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