「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



はじめに――「なぜ」を知ろうとする心。

「中小建設業のIT化」を考えるということ

子供の頃、ご飯を食べる時に、親から 「お百姓さんに感謝して食べなさい」といわれたことがあるかと思いますが、「中小建設業のIT化」について考えることは、ご飯を食べながら、お百姓さんはコメをどうやって作っているのだろう、と考えるようなものです。

ご飯をいかにおいしく炊き上げるか、ということについては、電気炊飯器かガス炊飯器か、やっぱりかまどを使って薪で炊くのが一番いいとか、いや同じかまどでも藁の方がいいとか、水加減はこうした方がいいとか、食べる直前に精米した方がおいしいとか、そんな楽しい議論をすることができます。

そのような議論で「中小建設業のIT化」が語られるのであれば、それは幸せなことです。それらは技術論としての問題なのです。

しかし、「中小建設業のIT化」には〈「公共工事という問題」の前では技術論的なIT化などなんの役にも立ちはしない〉という命題が存在してしまっています。

「公共工事という問題」とは、端的にいってしまえば、中小建設業の力の及ばない理由で「仕事がどんどん減っていく」ということです。この命題の前では、どのようなIT化論も、たいして意味を持てないのは当然のことでしかありません。

しかし、本当においしいご飯を極めようとしたら、米の銘柄や産地とか、栽培方法や乾燥の方法まで気になってしかたなくなってしまうように、本書が行っている「中小建設業のIT化」に関する議論は、まさに「お百姓さんはコメをどうやって作っているのだろう」を考えているような考察を行います。

つまり、本書は、この命題に対して、次の三つの本質的な問題を考えることで、それを乗り越えようとします。

  1. 情報とはなにか
  2. 中小建設業が売っているものとはなにか
  3. IT化とはなにか

これらは、「中小建設業のIT化」において「コメはどうやって作られるのだろう」を考えるようなものです。そして、ある意味哲学的な問いかもしれません。

哲学的というと、つい大上段に構えてしまいそうですが、それはそんなに大げさなものではありません。つまりは〈「なぜ」を知ろうとする心〉のことです。

世間では、ご飯を食べながら、コメはどうやって作られるのだろう、と考えるような人間には「馬鹿」というレッテルが貼られるのでしょうが、私はどうしても「中小建設業のIT化」が機能する道を知りたかったのです。

先の命題の意味するところは、「公共工事という問題」がある限り、IT化という経営の道具は、中小建設業の経営では意味をもてないということですが、それは「なぜ」なのかを意識してみようということです。そしてそれは、「公共工事という問題」の「なぜ」を意識することにつながっていきます。

その〈「なぜ」を知ろうとする心〉がなければ、「公共工事という問題」を解決できないままに、中小建設業の経営は、ただ時代の力に閉塞してしまうだけでしょう。

寺山修司は「書を捨てて町に出よう」と呼びかけましたが、本書は「書を捨てずに町に出よう」、ついでに「パソコンも捨てずに町に出よう」と呼びかけるものです。

本書はIT化の本ではありますが、技術論やノウハウ書ではありません。「中小建設業のIT化」を通して、〈「なぜ」を知ろうとする心〉を持とうと提言しているものです。

本書の読み方

本章は六つの章で構成されていますが、必ずしも第一章から順番に読み進める必要もありません。

読者の皆さんには、まずは目次を読んでいただいて、自分の興味のある章から読み始めることをお奨めいたします。

まずは自分の会社のIT化だ、というのであれば、第五章のIT化概論(企業編)から読み始めるのもよいでしょう。

そこで、興味はわくのだけれども、どうもよく意味がわからないというものがあれば、その関連するところを読んでいただければと思います。

例えばミームについてわからないのであれば、第二章のLesson6から8、それから第四章を読むという具合にですし、「なぜこんな考え方をするのだろうか」と、私の基本的な考え方に興味を持っていただいたなら、第一章から第二章のLesson3までを読んでいただければよいかと思います。

「IT化論」としての私の意見は、第五章と第六章に要約されています。ただその到達への経過(下敷きにしているさまざまな先達の研究の理解)の方が、本当は大切なのです。

本書は、私自身が、多くの先達の研究をまず点で理解しようとし(ひたすら読んでいたということです)、それを「中小建設業のIT化」というキーワードをもって、線でつなぐような作業をしながら、ひとつの考え方として構成しようと試みたものです。

特に、故村上泰亮氏の「反古典の経済学」、伊丹敬之氏の「デジタル人本主義」、金子郁容氏の「コミュニティ・ソリューション」、山岸俊男氏の「信頼の構造」には大きな影響を受け、本書においても多くを援用させていただいています。

そのために、本書は決して読みやすい本にはなっていないと思いますが、本書を読んでくださる読者の皆様が、本書で引用する先達の意見に興味を持っていただくことで、先達の考え方に皆さんが直接コミットしながら(つまり先達の本を読みましょうということです)、自らの「中小建設業のIT化」論を考えていただけるのなら、それはとてもすばらしいことだと思います。

こんなことも意識して、本書を読んでいただければ幸いです。

桃知利男

Written by 桃知利男のプロフィール : 2007年08月02日 22:41: Newer : Older


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