「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson1 本書の立場(2)―中小建設業のIT化=環境×原理

中小建設業のIT化=環境×原理

本書は、中小建設業がおこなうIT化を、経営の制度・慣行としてとらえています。これは当たり前の認識なのですが、この事実を忘れたIT化論が大手を振って跋扈(ばっこ)しているところに、「中小建設業のIT化」が遅れている原因があると考えるのです。

伊丹敬之は、経営の制度・慣行を考えるとき、それが「制度・慣行=環境×原理」という方程式で表されるとしています。(伊丹敬之,『経営の未来を見誤るな―デジタル人本主義への道』,日本経済新聞社,2000)

ここでいう制度・慣行とは、例えば、長期雇用的な雇用慣行や人事給与制度などがありますが、こうした制度・慣行は、企業の「環境」と、そうした制度や慣行を考える際に人々が用いている「原理」のかけ算であるということです。

これは、経営の制度・慣行がきちんと機能するためには、それがまず、企業の環境にマッチしたものでなければならないし、またその環境の中でいくつかの制度・慣行の選択が可能な場合には、企業がもつ原理のようなものにマッチしていなければならないということです。そしてこの方程式の意図は、どんな原理であれ、それを明示的に自分でもち、それを環境とかけ合わせて、そのかけ算の結果として制度・慣行を決めるべきだ、ということを意味しています。(伊丹,2000,p58,p60)

本書では、この伊丹の指摘に倣い「中小建設業のIT化」を次の方程式で考えます。

 中小建設業のIT化=環境×原理

なぜなら、経営がおこなうIT化とは経営における制度・慣行でしかありませんし、そして制度・慣行としてのIT化は、環境と原理の乗数としてのみ正しく機能するということです。この考え方を本書は貫きます。

昨今、公共建設市場という中小建設業をとりまく環境は激変しています。にもかかわらず、中小建設業は、制度・慣行をあまり変化させずになんとか環境の変化に対応しようとしています。そのため、自らの持っている原理のままでは方程式が成立しなくなってしまっているのです。それが「中小建設業のIT化」そして経営に閉塞感をもたらしています。つまり、経営の実態である制度・慣行が環境に合わなくなってきているのです。

さて、本書では、「中小建設業のIT化=環境×原理」という方程式をさらに次のふたつに展開しています。

 ① 中小建設業のIT化=中小建設業×IT化

そして「金魚論」からの解釈で、中小建設業が自らを生み出した市場(環境)の存在とすれば、つまり中小建設業=公共建設市場(ここでは単に「市場」と呼びます)とすればこうなります。

 ② 中小建設業のIT化=市場×IT化

まず、方程式①は、中小建設業とIT化がそれぞれに抱える環境と原理を理解することで、「中小建設業のIT化」という制度・慣行の議論を進めていくことを意味しています。つまり「中小建設業のIT化」を考察するということは、中小建設業とIT化が持っている、それぞれの環境と原理をできるだけ明らかにすることからはじめよう、ということです。

そして、②の中小建設業=市場というのは「金魚論」からの推論です。中小建設業は自らが存在する環境が生み出した存在であり、その環境に依存した存在であるとすれば、環境とは「公共建設市場」のことでしかありません。「中小建設業のIT化」を考える時、公共建設市場の環境と原理の考察も当然に必要であるということです。

つまり、本書では、IT化の環境と原理、中小建設業の環境と原理、公共建設市場の環境と原理の考察を通して、それらの乗数として「中小建設業のIT化」という制度・慣行の考察をおこなうということです。

私たちがIT化の考察に際して最初におこなうべきことは、コンピュータやアプリケーションソフトの品定めでも、ウインドウズVSマックVSリナックスというような、どうでもいいようなOS優位論争でもありません。それは自社(中小建設業)の環境と原理を徹底的に理解することで、中小建設業、つまり自分の会社の「IT化ってなに」という問いに対する輪郭的な答えを掴む作業でしかないことを理解していただくことです。

ただし、この考察方法にも問題はあります。それはこの考察方法が、中小建設業のIT化を「IT化」「中小建設業」「市場」というパーツに分けて、それぞれの環境と原理を徹底的に理解しようとする方法そのものにあります。本書では、場合によってはそれらを顕微鏡で観察するようなことをおこないますが、これにも実は大きな落とし穴があります。

例えば、理科の実験での「かえる」の解剖を思い出してください。「かえる」のからだの仕組みを知ろうとして「かえる」を各パーツにバラバラにすることで、そのパーツの形態や機能を知ることはできるかもしれません。しかし、形態や機能を理解したからといって、バラバラになった「かえる」を縫い合わせて元のかたちに戻せば、「かえる」はまた水の中を泳いだり、跳ねたりするのでしょうか。答えは「否」です。なぜなら「かえる」は死んでしまっているからです。バラバラになった「かえる」を元のかたちに戻しても生命が元に戻ることはありません。

本書のおこなう中小建設業のIT化へのアプローチは「かえる」の解剖のようなものに思えるところがたくさんでてきます。でも、バラバラになった部品を元のかたちに戻してもそこに生命がやどることがないのも事実です。

この「かえる」の解剖のように、ものごとを構成するパーツを詳細にみていくことによって、私たちは何かしらわかったような気にはなるものです。しかし、そのパーツを組み合わせたところでそれに命が宿るのか、といえばそうではありません。これは「中小建設業のIT化=環境×原理」というアプローチをおこなうに際して忘れてはならない「大切なこと」です。

つまり、「中小建設業のIT化」という時の、中小建設業もIT化も、そして市場も、決して機械の部品のようなものではなく、それぞれが命をもった生き物のようなものだ、という理解をしなくてはなりません。それらは「中小建設業のIT化」を構成するパーツというだけではなく、複雑な相互依存関係を持つ生命体のようなものであることで、初めて意味を持って機能し始めるのです。「中小建設業のIT化」が、「中小建設業=環境+原理」と加算ではなく「中小建設業=環境×原理」という乗数で表されているのは、それが単なる部品の寄せ集めではなく相互に依存しながら機能しているものだからです。

Written by 桃知利男のプロフィール : 2007年08月02日 23:45: Newer : Older


このエントリーのトラックバックURL

https://www.momoti.com/mt/mt-tb.cgi/1477

Listed below are links to weblogs that reference

Lesson1 本書の立場(2)―中小建設業のIT化=環境×原理 from 桃論―中小建設業IT化サバイバル論

トラックバック