「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson7 市場とミーム(2)―主流のメカニズム

主流のメカニズム

本書では、主流が生成されるメカニズムを大変重視しています。このことは、ミームが主流であったりそうでなかったりする、つまり文化形成のメカニズムを知ることで、私たちがさんざん耳にしてきた、「中小建設業にIT化はいらない」という文化をつくりだしてきた仕組みを知ろうとすることを意味しています。それは、逆説的には「中小建設業にIT化は必要だ」というミームは文化を形成できるのかを考える基盤になることを意味しています。ここではその概観を見てみることにします。

私は、ミームにおける主流のメカニズムの正体は、山岸俊夫のいう文化の理解、「心と行動とのあいだの相互依存関係が生みだす相補均衡」(山岸俊男,『心でっかちな日本人―集団主義文化という幻想』日本経済新聞社,2002,p113)と考えています。

これを支えているのは、「赤信号みんなで渡れば怖くない」的な頻度依存の行動なのですが、しかし「赤信号みんなで渡れば怖くない」で信号を渡る方々は、普段でも法律を守らない「こころ」の持ち主なのか、といえば、それは違うでしょう、ということです。みんながやっているという行動が相互依存的に模倣され相補均衡状態を生み出しているだけだ、ということです。

ですから「中小建設業にIT化はいらない」という文化は「赤信号みんなで渡れば怖くない」という行動と同じような仕組みで成立しているものでしかないと考えるのです。「中小建設業にIT化は必要だ」と考え、IT化に取り組む方々がある限界質量を超えた時に、IT化への動きは相互依存的に相補均衡状態を生み出すことになるだけです(これについては、企業編 「IT化における頻度依存行動」を参照してください)。

ミームが産業を束ねる

相補均衡を「産業」の生成について見れば、そこにもミームの複製能が働いていることを理解することができます。

たとえば、ある「技術のミーム」つまり、生産技術がある時代の社会的環境下で複製(模倣)されやすいとすれば、その生産技術を使用しようとする諸企業が類似性を高めるにつれて、さまざまな経済的交換(の可能性)が、それらの企業群を結び目(ノード)として束ね上げられ、このような企業群がいわゆる「産業」ということになります。(村上,1994,p144)

これは、ある技術が商売になりそうだとすると、その技術模倣が簡単であれば、そこに、目ざとい方々が「俺もこれで一旗あげよう」とたくさん集まってきて、その技術を基にした産業が形成されるということです。もちろん売れなくなったらこの産業というか商売も縮小若しくは消滅してしまうのは当然なことです。これは様々な産業についてみられる主流のミーム形成の頻度依存行動な動きです。たとえば、個人でいえば、就職先の人気ランキングとか独立する場合に人気の職種などもこの頻度依存行動の一部だと考えてもよいでしょう。

一方、「消費のミーム」は、各人の生活世界イメージの反映と呼べるようなものです。「消費のミーム」は多くの場合輪郭がかなり曖昧であって、交換という行為を束ねる力は実はかなり弱いものです。だから通常は消費の側から産業を規定する力は、生産技術の側からするよりも弱いと考えられています。これが普通の市場のかたちです。通常は「技術のミーム」が「消費のミーム」を生成していくのです。つまり、よくいわれる言葉「経営とは顧客の創造である」とはこのことです。

しかし、一定の社会的環境(市民社会や国民国家など)のなかで暮らしている人々の生活は、さまざまなミームの働きによって均質化され、要求は類似化される傾向があります。日本の高度経済成長の中でおきた「大衆という階層」の台頭や、国民に蔓延した国民総中流意識、そしてそこでうまれるさまざまな消費パターンや社会生活における頻度依存行動と相補均衡。そこから伝播力の強い消費パターンのミームが形成されてくれば、それは、産業を規定する力になりうるのです。(村上,1994,p144-145)

このような場合には、「消費のミーム」が「技術のミーム」をつくりだしてている、ということができます。後ほど詳しい考察を行いますが、中小建設業という産業は、「消費のミーム」が「技術のミーム」を形成している典型事例でしかありません。

Written by 桃知利男のプロフィール : 2007年09月26日 15:07: Newer : Older


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