「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson19 IT化の意義―IT化はなぜ必要なのか

IT化はなぜ必要なのか

これまでの「IT化=環境×原理」の理解を前提に、まずは個々の企業でのIT化について考えてみましょう。これまでの議論をもってしても「なぜIT化が必要なのか」という疑問はぬぐえてはいないでしょう。私は、この疑問に対する答えを、かつて次のように書いたことがあります。

  1. IT化とは企業戦略の道具としてある
  2. IT化は競争勝利の戦略としてある
  3. つまりIT化とは、技術と経営に優れた建設企業実現のためにある

こうして、もっともらしい答えが並ぶのですが、では今も同じ答えなのか、と問われたら、「同じだけれども違う」と答えるしかありません。

なぜなら、これらの答えは、公共建設市場でマーケット・メカニズム(市場原理)が機能することを前提としいるからです。正直にいえば、この答えを書いた当時の私は、短略的な市場原理信仰者でしかありませんでした。ですから「IT化はなぜ遅れたのか」で触れた「市場のルールによるIT化の阻害」が、公共建設市場のマーケット・メカニズム化で解決がつくことを前提としていたのです。

似非マーケット・ソリューションによる阻害

しかし、この前提はふたつの意味で誤りだったと考えています。ひとつは、これまでの議論でも明らかなように、公共建設市場は「マーケット・ソリューション」側に振れてはいますが、それがどうも「いんちきくさい」ということです。

本書では、自治体がおこなう制限付き一般競争入札を、「似非マーケット・ソリューション」と批判的に呼んでいますが、公共事業への短絡的な市場原理の導入は、「マーケット・メカニズム」をかなりゆがんだ方向にねじ曲げているだけで、とても自由主義経とはいえません。

お役所仕事を市場化することは、本来内部の力で行うべき改革が内部の力ではできないからで、外部の力(市場のシステム)の導入は「発注者」の改革のためのものです。しかし「似非マーケット・ソリューション」は「発注者」自らは自分のことは棚に上げてしまいます。ですから、そのようなねじ曲げられたマーケット・メカニズムが機能する公共建設市場では、先の①~③をIT化をもって実現しようとしても不可能です。

マーケット・ソリューションの限界

そしてふたつ目はさらに本質的なものなのですが、そもそも公共建設市場に「マーケット・ソリューション」を持ちこむことが絶対の問題解決策なのかという疑問です。それは中小建設業の終焉を意味するだけのものでしょう。

今の中小建設業に、真正であれ似非であれ「マーケット・ソリューション」に対応できる経営力や技術力を持った企業はほとんど存在しません。つまり「金魚論」は未だに機能しています。自ら餌を捕ることを前提とした環境には適応できていのなら、市場のやみくもなマーケット・メカニズム化は、中小建設業の淘汰の原因としかなりません。

一番の原因は、(真正であれ似非であれ)「公共工事という問題」での「マーケット・ソリューション」には、中小建設業の経営努力を評価する仕組みが制度的に組み込まれていないからです。

公共工事の目的とルール「マーケット・ソリューション」はその市場への参入者に対して、グローバルな効率性や合理性を最優先に求めます。しかし、中小建設業が生きる「公共工事という産業」の効率性や合理性は、ローカルであることで発揮されるものです。

ですから、マーケット・メカニズムを単純に絶対化するような公共建設市場では、ローカルである中小建設業の存在事態が、たいして意味を持たなくなってしまいます。

大手でできるものを中小に回すのは、非合理であり非効率であるとなります。そのような市場では、IT化に限らず、どのような経営努力も、結局は無駄なものでしかありません。

信頼のIT化へ

本書のいう「中小建設業のIT化」が、このような認識を基底にしていることは、これまでの議論でも明らかでしょう、しかし、この認識はIT化の"あきらめ”を意味してはいません。経営努力がたいして認められないのは、あくまでも(グローバルな)「マーケット・ソリューション」の文脈では、という注釈がつきます。

CG空間つまり、公共建設市場において「中小建設業のIT化」が、経営戦略となり、技術と経営に優れた建設企業実現のための道具であるには、「マーケット・ソリューション」の文脈から、その視点を一度はずしてみる必要があるります。本書は、それが「コミュニティ・ソリューション」への視点だというのです。

それは〈IT化を効率化や合理化の道具として考えることをやめてみなさい〉ということです。

IT化が中小建設業になんらかのメリットをもたらすとすれば、まず〈中小建設業が売っているものとは、自社の「技術のミーム」(信頼)である〉という理解が必要です。

そして〈IT化が扱う「情報」とは「ミーム」のことである〉ということを理解し、さらには〈インターネットとはミームが獲得した新しいプール(培地)である〉という文脈を理解することでしか、私たちはIT化のメリットを享受することはないでしょう。

つまり、IT化を自らの経営ツールにできるとすれば、IT化が「消費のミーム」との間に、「ソーシャル・キャピタル」の編集を可能とする自社の「技術のミーム」を育て上げる取り組みであること意外に、「中小建設業のIT化」が立脚する足場をみつけるのは困難だということです。

こう書くと、早速自社のホームページを立ち上げ、「技術のミーム」を広めようと考える方がたくさんいるはずですが、それはたいして効果はないでしょう。なぜなら、そもそも公共工事に対する「消費のミーム」とコミットメント関係を持てるような「技術のミーム」を、中小建設業は持っていないからです。

これは、先に示した〈公共工事という産業にはコア・コンピタンスがない〉という指摘と同じことをいっています。つまり、多くの中小建設業はインターネット上で売るものなどなにも持ち合わせてはいないのです。

つまり「中小建設業のIT化」とは、市民社会(顧客)に対して伝えたい、自社の「技術のミーム」(コア・コンピタンス)を創りだす作業である〉ことを意味しています。そして同時進行的に、自社の「技術のミーム」と顧客の持つ「消費のミーム」とのコミットメント関係の編集をしていく相互作用、つまり「ソーシャル・キャピタル」の編集を図っていく基盤をつくることなのです。

そんなことは別にIT化でなくともできるだろう、という反論はあるでしょう。たしかに、地域社会に根ざした中小建設業の行う〈「消費のミーム」と関係性の編集は、リアルスペース、つまり身体性を伴った現実社会で行われる〉には違いありません。ただ、IT化で得たものを、その編集の足場にできることで、私はIT化の必要性をいうのです。

それは〈インターネットとはミームが獲得した新しいプールである〉という言葉に収斂されます。つまり自社の「技術のミーム」が増殖するには、IT化は有効でこそあれ、不要なものではないということです。

これが本書のいう「中小建設業のIT化」の考え方です。それでは、そのためには何からはじめたらいいのかというのが、次からの考察です。

Written by 桃知利男のプロフィール : 2008年05月23日 13:59: Newer : Older


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