黒川紀章さんが逝去されたという訃報には驚きました。


黒川先生の建築も人為(ひととなり)も、私はよく知りません。

黒川先生は、私にとってはなによりも、J・ジェコブスの『アメリカ大都市の死と生』の翻訳者でした。

短い言葉で表わすならば「信頼」ということである。街路に対する「信頼」は何年間にもわたって、おびただしい数にのぼる歩道でのちょっとしたつき合いから形成されてくるのである。「信頼」はバーでピールを飲むために足を止めたり、食料品店のおじさんから話しかけられたり、売店の売子に話しかけたり、パン屋で、買物に来た他の人とパンの品定めをしたり、ソーダ・ポップを飲んでいる男の子たちに「ハロー」と挨拶したり、「夕食の用意ができましたよ」と呼ばれるまで通りを通る女の子たちを眺めていたり、腕白小僧たちをさとしたり、金物屋の主人から商売の話を聞いたり、ドラヅグ・ストアのおやじさんから一ドル借りたり、近所の赤ちゃんをほめたりすることから生れてくるのである。その習慣は多種多様である。(『アメリカ大都市の死と生』:p69)

この本のおかげで、私は街路に対する「信頼」というモノがある、ということを知りました。

そして街路に対する「信頼」に、憧れと敬意をもって、今の仕事をすることができています。

それを私に教えてくれた黒川先生に、衷心より哀悼の意を表します。