物質・生命・魂の三位一体構造
図:『古代から来た未来人折口信夫』 p125


 ここで折口信夫が高皇産霊神・神皇産霊神と呼んで、その重要性を説いている神は、ふつう「ムスビ」の神と呼ばれている。ムスビと呼ばれる神は何種類もいて、いずれも事物の生成や生産に関わっている。記紀神話では、その中から二つの柱のムスビ神を選び、天御中主神と一組にして、じつに不思議な出現のさせかたをする。

天地初めて発けし時、高天の原に成れる神の名は、天之御中主神、次に高御産巣日神、次に神産巣神、此の三柱の神は、みな独神と成り座して、身を隠したまひき。(『古事記』)

 後の時代に大いに発達する鎮魂の儀礼などで、ムスビ神は重要な役目を果たすようになるし、有力な古代氏族の中には、ムスビ神の仲間を自分たちの先祖神とする者たちもいた。しかし奇妙なことに、神々を体系づけるための記紀神話の中で、ムスビの神が登場するのはここだけであり、登場したかと思ったらすぐに隠れてしまう。あらわれると同時に自分を隠してしまう神であるムスビの神は、そのあとに形成されることになる神々の世界といっさいの関わりを持たない。しかし、すべての神々の世界は、この三神によって準備され、支えられている。このようなムスビの神の存在のしかたを見ていると、たしかに折口信夫の語るように、「すべてに宗教から自由」であるように思えてくる。

高皇産霊神:日本神話の造化のの三神の一。天照大神とともに、高天原の至上神。生成の霊力を持ち、太陽神としての性格をもつ。

神皇産霊神:造化の三神の一。生成の霊力を持つ神で、兄神たちに謀殺された大国主命も、この神の力で蘇生したという。

from 中沢新一:『古代から来た未来人折口信夫』 p125

古代から来た未来人折口信夫 (ちくまプリマー新書 82)

古代から来た未来人折口信夫 (ちくまプリマー新書 82)

中沢新一(著)
2008年5月10日
筑摩書房
700円+税