五木 犯罪小説で殺人とかいろんな事件が起こると、だいたい、舞台は北なんですよ。とくに北海道がもうすごく多い。
香山 そうかあ。私も一応北海道の人間ですからね(笑)。でも、九州でも大牟田とか、ずいぶん殺人事件とかが起きていますよね。
五木 いや、忘れていた(笑)。筑豊とかはすごいですね。でも、なんか陽気なんだよね。日中、中州の繁華街でピストルをバンバン撃っていたりするんだから。
香山 陽気って......(笑)。でもたしかに、なにか問題を持っている人は、北に逃げる、というイメージはありますね。
五木 鬱というと、イメージ的に北という感じがします。九州は躁ですね。今九州弁がわりと流行っているでしょう。「だんだけー」とか、いろいろい流行していますね。
香山 あれは九州弁なんですか。
五木 「どんだけー」っていうのは福岡の言葉です。それから、『佐賀のがばいばあちゃん』の「がばい」というのは very という意味ですから、本当は、「がばいすごかばちゃん」といわなきゃいけないんですが(笑)。
ああいう流行のなかには、一つの解毒作用がある。『がばいばあちゃん』とう本は、最初は自費出版だったと聞きました。それがあそこまでベストセラーになったのは、やはり今の時代が鬱の時代だから、明るさを求めているのかもしれない。僕は、東北弁が流行る時代と九州弁が流行る時代があると思うんです。
ばあちゃんが孫に「ばちゃん、腹が減った」って言われて、「それは気のせいたい」って言うのがいいですよね。唯識の思想だ(笑)。同じことを東北弁で言ったら、すごくつらい感じになりますよ。でも「気のせいたい」って言えば、「あ、そう?」って感じになる。いまの時代、つい深刻になっちゃう人が多いでしょう。九州の人間は無責任なんです。
香山 五木さんもですか。
五木 そうですよ、当然(笑)。通信簿見て1ばっかりでも、「ああ、1が五つ、全部足せば5たい」と気にしない。僕が聞いたいちばんおかしかった話は、 ある店に入ったら四十歳のホステスが来たので、「この店、年寄りばっかりじゃね」と言ったら、「二十歳の女の子が二人来たと思えばよかたい」って(笑)。そういう無責任さに対する解毒剤のような役割を果たしているのが、「どんだけー」とか「がばい」なんですね。
香山 宮崎の東国原知事なんかもそうですね。
五木 そうそう。「どげかせんといかん」っていうのも、なんとかして対策を講じなければって、真面目に考えているわけじゃない。「どうにかせにゃいかん」って言っていればなんとかなると思っているんですよ。
from 五木寛之 香山リカ:『鬱の力』:p205-208
|
五木寛之(著) |