「ももち どっと こむ」より

還暦祝い!平成30年9月15日(土)桃組「小さな勉強会」と「暑気払い」のご案内。山と山とは出会わぬものだが人と人とは出会うもの(また会う道もある花の山)。

2018年08月01日|イベント



Lesson4 インターネット社会

インターネット社会の方向性

金子郁容は、『新版 コミュニティ・ソリューション―ボランタリーな問題解決に向けて』でインターネット社会を「ふたつの方向性」を持つ象限(※平面を直交した二直線で分けた四つの部分)によって描きだしています。(金子郁容,『新版 コミュニティ・ソリューション』岩波書店,2002)

ここでは、そのふたつの方向性を、金子によるインターネット社会の描写をなぞることで理解を進めたいと思います。そのふたつの方向性とは次のようなものです。

 グローバルへの方向性
 G(global)軸
  ・世界が平滑化しグローバル・スタンダードが支配的になる
  ・マーケット・メカニズムが一層重要になるグローバルな活動が必要とされる

 コミュニティへの方向性
 C(community)軸
  ・文化的・経済的多様性と分散化が進む
  ・たくさんの新しい関係性が発生し多種多様なコミュニティが形成される

つまり、インターネット社会はグローバルな方向性(G軸)ばかりが強調されていますが、その表裏の関係として、さまざまな新しいコミュニティへの方向性(C軸)も同時に芽生えるのです。インターネット社会は、グローバルへの方向性とコミュニティへの方向性を内在した二面性を持つ社会だということです。

インターネット社会では、誰でも、どこにいても世界中の情報に瞬時にアクセスすることが可能となります。このことは、「情報の非対称性」(※売り手には正しい情報があり、買い手には正確な情報がないという、両者間での情報量に大きな差異がある場合のことを「情報の非対称性」といいます。)で成り立っていた二番手、三番手が競争力を失う可能性が高いことを意味します。さらには、「ネットワーク外部性」がその傾向を加速することで、グローバル・スタンダードという平準化が行われることになります。これがG軸(グローバルへの方向性)の意味するところです。(金子,2002,p88)

しかし、世の中が平準化するということは、それだけ既存の組織やシステムの多くが無力化することを意味します。これは、逆説的には従来は認められていなかったさまざまな微小な力が影響力を発揮しやすくなることを意味しています。個人がインターネットを活用することで、情報の発信、受信の機会、能力の発揮の機会が大きく増えて、それを生かして社会の活動の中に自らが参加していくことの可能性です。つまり、無数の「一番」ができる可能性が開けるのです。(※金子,2002,p89)

これはホームページがいい例でしょう。たいした事例ではありませんが、前章の「私の身の上ばなし」を参考にしてみてください。私自身が、ホームページを活用することで「微小な力が影響力を発揮しやすくなる」という文脈上に存在していることが理解いただけるでしょう。

私は既存の組織やシステムには属していない人間ですが、無数の「一番」のひとりとして今の仕事をしているということができます。そして、インターネット社会では、固定化されてきた「学生」とか「平社員」という「身分」や、大学とか企業という機関などの固定された「組織」の枠を超えて、生活圏が世界中に拡大されていきます。そこでは、個人と世界がクリックひとつで直結している「新しい関係」が成立してしまえることになります。それは世界から自分がアクセス可能な状況ができあがることを意味していますが、そのような社会では、これまでには成立できなかったようなさまざまな「新しい関係」が発生する可能性が大きくなります。(※金子,2002,p91)これがC軸(コミュニティへの方向性」の意味するところです。

これをインターネット社会におけるマクロな社会・経済行動や問題解決の方法として見ると、G軸とC軸は次のような方向性を示すこととなります。

 G軸-契約、リスクヘッジ、自己責任などを強調したグローバルな行動と問題解決
 C軸-コミュニティに基盤をおいた活動

ミクロ組織レベルからすると、今後の企業、NPO、行政組織は、それぞれG軸とC軸に対応する次のふたつの大きな選択を迫られることになります。

 G軸-グローバル・マーケットで競争するグローバル・ビジネスを展開する
 C軸-コミュニティ組織型ないしコミュニティをターゲットとする組織を目指す
(※金子,2002,p82,83)

これをG軸を縦軸にC軸を横軸とした二次元空間(図1「GC空間と四つの指向」)で表すと、企業、NPO、行政などの組織がインターネット社会で生き残るには、この象限のどれかひとつを選択しなくてはならないことがわかるはずです。

「図1」GC空間と四つの「指向」
「図1」GC空間と四つの「指向」

  • 第Ⅰ象限「グローバル指向+コミュニティ指向」
     コミュニティとして活動する、ないし、コミュニティをターゲットとしながら、同時に、グローバルな存在にもなる
  • 第Ⅱ象限「コミュニティ指向」
     アクティブな相互性をもってコミュニティとして活動することに特化する、かコミュニティに活動のターゲットを絞る
  • 第Ⅲ象限「グローバル指向」
     グローバルなマーケットで競争する存在として特化する
  • 第Ⅳ象限「ノングローバル指向+ノンコミュニティ指向」
     グローバルな存在でもなくコミュニティ性も薄ければ生き残れない
    (金子,2002,p84)

このGC空間における四つの指向分類が私たちに教えてくれることとは、インターネット社会では、

〈中小建設業は、第Ⅱ象限「コミュニティ指向」の存在である〉

という現実です。つまり、中小建設業は、第Ⅱ象限である「コミュニティ指向」の空間でしか生き残れないもものだという認識こそが大切なものとなります。

昨今の中小建設業に関する議論は、ともするとインターネット社会のグローバルな方向性ばかりを強調して行われる傾向がありますが、インターネット社会は、「グローバル指向」と「コミュニティ指向」という二面性の上に成立するものなのであり、そもそもグローバルな方向性の強い空間で中小建設業を論じても何の意味もないのです。もちろんそれは「中小建設業のIT化」についてもいえることです。さらに、ここでいうコミュニティとは市民社会とか地域社会と呼ばれるものを視野にいれたものであり、今までの「公共工事という産業」で見られる集団主義社会のことではない、という指摘を付け加えておきましょう(これについては後ほど詳しい考察を行います)。

Written by 桃知利男のプロフィール : 2007年09月17日 16:23: Newer : Older


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