シャネルだから好き。これはヘンだ。好きだと思った服のメーカーを後で知ったらシャネルだった。これはヘンではない。
ゴルチェは前衛的でかっこいい。これもヘンだ。前衛的でかっこいい靴だと思って買ったらゴルチェだった、これはヘンではない。
さらに、シャネルだと自慢したいわけではないがシャネルを買う。これはヘンだ。シャネルだと自慢したいからシャネルを買う、これはヘンではない。
つまり、本人が本人の心で判断するのはヘンではないが、他人の貼ったレッテルを鵜呑みにして自分で判断しないのはヘンである。
だから、たとえばレストラン案内や雑誌などを見て、
「ほほう、これが四つ星のレストラン、○○○か、なんだたいした味じゃないではないか」
と、思うのも、
「ほほう、これが四つ星の○○○か、ううむ、さすがにうまい」
と、思うのも、「あらかじめ"構え"ができてしまっている」という点では、ヘンな味わい方法である。
道を歩いていたら腹がへった。近くにあったレストランに入ったらうまかった。あるいはまずかった。味わい方法としては、このほうが純粋である。
from 『ほんとに「いい」と思ってる? (角川文庫)』 p143-144
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姫野カオルコ(著) |