いま私たちが考えるべきこと どうして日本の親たちは、結婚する自分の子供に対して、「私たちのようになればいい」とは言えないのか? それは、その親たちが既に、「結婚の基本形」を失って結婚していたからである。「結婚の基本形を失った結婚」は、あるいは祖父祖母の代までさかのぼる。なんでそんなことがはっきり言えるのかと言えば、ある時「日本の家族のあり方」が変わったからである。


 第二次世界大戦が終わって、「夫婦」や「家族」のあり方を規定する民法が変わった。それまでは「私たちのような夫婦になればいい、世間にある夫婦のようになればいい――ならなければならない」で通っていたものが、その時から通らなくなったのである。

(中略)

 私の言いたいことは、「ちゃんとした結婚をしたかったら、"ちゃんとした結婚の形"があった過去へ戻れ」ではない。それは、「前近代の考え方」で「前近代」の終わってしまった今と、そしてこの先においても、考えても意味のない考え方である。私の言えることは精々、「ちゃんとした結婚の形を考えたかったら、それなりに、"ちゃんとした形"を保っていた過去を探って、参考になるなにかを拾ってくるしかない」だけである。これは、「結婚の形」だけではなくて、すべてにわたってのことである。

(中略)

前近代は「我々はその過去において、万能であってしかるべき正解をもっている」というかなり恣意的な歴史を前提にして、丸い小さなお盆の上の、完結した「私たち」を実現させて行く。つまり、「私たち」という一体感は、「その過去に正解があった」とする前近代のものだということになる。

(中略)

近代は、「自分の頭で考える」である。「答えは過去にある」の前近代は、それに対して、「考えられる立場の人に考えてもらう」なのである。だからなんなのか? 

from 『いま私たちが考えるべきこと』 p208-214

いま私たちが考えるべきこと

『いま私たちが考えるべきこと』

橋本治(著)
2004年3月30日
新潮社
1300円+税