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2019年03月03日|お知らせ
『江戸・東京歴史物語』 長谷章久を読む。
長谷章久(著) |
午前6時浅草は小雨。浅草の、浅草寺の裏側の、千束に住んでいれば、否応無しに感じるのは、地面から生えてきたモノだ。
浅草寺の成り立ち、歴史はともかくも、奥山のその奥の、浅草田圃にぼつんと出来たのが吉原(なか)で、あたしはそのすぐ側に棲んでいる。
浅草田圃も吉原ができてから、いろいろあって――本当はこの"いろいろ"がすごいのだけれども、いろいろあって書けない――人がたくさん住むようになった。かと思えば関東大震災と東京大空襲があって、あたしは今たくさんの屍の上に住んでもいる。
けれど死んだ人だって、最初から死んでいたわけもなく、そこにはそれぞれの時代の、それぞれの人々の生活があった。しかしそういう生活を今は、残されたテクストとわずかな史跡から知るしかない。
戦後に生まれたあたしには断層がある。過去がないのだ。浅草の〈遅れてきた者〉でしかないあたしには、それは当然のことだし、焦土と化した東京はリセットされた街でもある。
しかし心象としての地面から生えてきたモノ(暦と地図)はあるのである。けれどそれが何なのかがわからない。それを知りたいという〈欲望〉があたしにはあって、それは年を重ねるごとに尚更になのだ。
そんなことを知らなくても、いやむしろ、知らない方が生活しやすいのが「郊外」なのだろうが、「郊外化」というのは、その土地から生えてくるものとの絶縁なんだろう。
長谷章久さんは平安時代の文学を専攻する文学者だった。その素養と戦後間もなく始められたという取材(フィールドワーク)によってまとめられたこの本は、そんなあたしの〈欲望〉を満たすには不十分かもしれないが(その「不十分」の理由はあたしの教養のなさでしかないのだが)、その視点が暦と地図であることで、読んでいてこんなに「おもしれー」ものもないのである。
Written by : 2008年05月10日 11:27: Newer : Older
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