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2019年03月03日|お知らせ
江弘毅の『パサージュ論』か。
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ヴァルター・ベンヤミン(著) |
午前6時20分起床。浅草はくもり。昨晩、江弘毅から往復書簡の原稿が届いた。原稿が添付された彼のメールには『ちょっと書いてばっかりだったので、今回は編集者してます。とやったら、抜群におもろいテクスト(これはテキスチャー)になりました。』という言葉が添えられていた。
なるほど今回は、「お好み焼き屋」に関する
『しかしお好み焼き屋は、「街的」のかたまりみたいなもんやなあ。』
さすがに編集者というのはうまいことをやるもんだなーと思うと同時に、あたしは、ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』 を思い出していたりした。『パサージュ論
』は、あたしがこうしてブログを書いてることの、ひとつの雛形のように存在しているもので、それは、
『パサージュ論』の目次を眺めておもむろに本文のどこか任意の箇所を拾い読みしてみると、この著作は膨大な資料集であるかにみえる。ところどころに、ベンヤミンの哲学的ないし芸術論的思索の断片、方法論的あるいは認識論的覚え書、資料批評などがちりばめられているが、全体としてはこれは、一九世紀のパリという一つの時代と社会のあらゆるジャンルがら抜き取られた断片的資料集であることは確かである。ベンヤミン自身の肉声も断片であるし、資料と引用もまた断片である。(今村仁司:『パサージュ論
』 解説:p467)
ということである。あたしのようなジジイの書くブログというものは、多かれ少なかれ(意識しようともしまいとも)、ベンヤミンの仕事をなぞると(あたしは)思っている。それは、ひとつひとつのエントリー(の中身)はバラバラな断章だけれども、(ブログ)全体からみれば必ず書き手の興味(思想)に収斂していくということだ。
だから浅草の「街的」を書いていても、ITの専門用語を並べても、政治経済的な戯れ言でも、もちろん建設業や地域のことでも、バラバラな話題はどこかでつながっている。そしてその「つながっている」ことで生まれるものが書く者の「におい」であって、それはテクストを読んでいて感じるある種の質感≒「テクスチャー」※1である。
その質感に胸の奥が擽られるような快楽がテクストの快楽のひとつなら、あたしはそんなテクストが書けないことは自覚している。書こうとしても書けない。書く才能は持ち合わせていない。だからこのブログは断片的資料集としかならないのである。
それはあたしに限らず多くのブロガーがそうであり、つまり黙っていてもブログを書きためればそれはデータベース化する。そのデータベースに数値化できない他者との共感やシンパシー(つまり「贈与」的なもの)を紛れ込ませようとしてテクスト狂はもだえ苦しむのである。つまりあらゆるテクストは「贈与」を目指す。
マラルメ詩が小さな帆船に乗り込んで漕ぎ出した、近代の荒れ狂う多様体の海は、百年後には比較的穏やかな乱流となって、表層の全域にそのカオスの運動を繰り広げるようになった。そのことは、もはや「高踏的」な知的エリートばかりではなく、インターネットを手にした多くの大衆の体験し、知ることとなったのだ。マラルメはその多様体の隅々にいたるまで意識のネットワークを張り巡らせ、大切な接続点でおこっていることのすべてを言語化しようと努力した。これに対してネットワーク化した社会を生きる大衆は、小さな自己意識の周辺に集まってくる無数の前対象を、反省に送り返すことなくイメージ化することによって、現実の表現をおこなっているに過ぎない。それはとりたててすばらしいことではないが、かといって陳腐なことでもない。ハイブリッドの氾濫、それはまぎれもない現実であり、十九世紀にマラルメのような人物がはじめて意識した問題は、いまや今日の大衆の実感になっている。(中沢新一:『フィロソフィア・ヤポニカ』 :p365)
もだえ苦しみながらもそれができてしまう人が作家であり、あたしのようにただもだえ苦しむだけの人をヘンタイと呼ぶなら、もだえ苦しむことを回避した人々を消費者とか「みんな」というのである。
それで江弘毅の今回のテクストの質感というのは、引用を多用してもいつもの江弘毅なのである、というよりも、引用が江のひとなりを倍増して表徴しているように思えるのは、やっぱし彼は編集者ということなのだろかね、と思うしかなかったりするのだし、そこにはなにか余裕のようなものまで醸し出していたりするなーと。なんだんだこれは?
※注記
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江弘毅がいう「テキスチャー」とは、IT用語では texture (テキスチャー)である(たぶん)。ITの世界では、3次元グラフィックで表面の質感を出すために貼られる画像のことだが、ここでは文章全体が醸し出す質感だと思って貰えばよいだろう(たぶん)。
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: 2009年02月25日 07:30: Newer
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