姑娘

姑娘 (講談社文庫)

水木しげる(著)
2010年8月12日
講談社
524円(税別)


午前7時45分起床。浅草はくもり。宮崎空港で本を探していたら、水木しげる氏の『姑娘』を見つけた。あたしが此の手の本を知るよしもないのだが、最近、水木しげる氏によくあうな、とばかりに早速買ってみた。羽田までの空のお伴である。

この本には『姑娘』、『海の男』、『此一戦』、『奇襲ツラギ沖』、『戦艦「比叡」の悲劇』の5本の作品が載っている。そうのうち『姑娘』だけは書かれた時期が遅いようであり、この作品だけは例の密画のような背景が美しいのだ。

しかし(『姑娘』の)はなしは、なんとも哀しい。

ある村で広州の大学を卒業したばかりの村長の美しい娘が、日本軍につかまり中隊長に献上されることになる。中隊に向かう途中、分隊長は娘を手籠めにするが、彼女は二夫にまみえることはできないので妻にしてくれ、と分隊長に懇願する。彼女は処女だったのだ。

次の日、今度は上等兵が彼女を手籠めにしようとするが、娘は激しく抵抗する。仲裁にはいった分隊長は上等兵をなだめようとするが誤って彼を殺してしまう。

軍隊にいられなくなった、と思った分隊長は、自分と上等兵は戦死したことにしてくれ、と部下たちに云って娘と脱走する。四十年後、観光で中国を訪れたかつての部下の服部は、昆明の田舎で年老いた分隊長と偶然再会し、その後の運命を聞くのだ。「あとがき」によれば、このはなしは戦争中に中国にいっていた伍長のはなしが元になっているという。

後の4編は貸本時代のもので、1冊残っていた貸本マンガから、コピーにとって復元させたものである。作品はみごとに「マニアック」といってよいだろう。戦記物は普通の人(戦争体験者以外の人)には面白くないらしく、本が売れないので原稿料も安かった(とあとがきに書いてある)。

戦争の"気分""気持ち"がこんな風に作品となって読める。当時の若者が「とても"大変な気持ち"」で「一生使うエネルギーを二年間で使い果たす」ような緊張で戦争に出たのが、分かるような気がするのだ。