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2019年03月03日|お知らせ


2007年02月15日(木) 

機械に人間の感性がわかるのだろうか―参照:『定本 物語消費論』(大塚英志)

午前6時起床。浅草は晴れ。

書き手の感性を81種類に細分化--NTTアド、ブログ分析サービス開始」(CNET Japan)

ブログやSNSなどで話題になった商品やサービスについて、従来の分析エンジンが行っている商品名などの単語の出現頻度だけではなく、そのブロガーが商品を購入しているか否かを把握したり、好意的に書いたのか、それとも否定的なのか、といった書き手の感性を最大81種類に細分化してレポートしたりすることが可能。自発的に書かれたブログ記事をベースにしているので、調査する側の偏見や先入観を受けない、消費者の本音を引き出せるとしている。

これを読んで、大塚英志の『定本 物語消費論』を思い出した。

すなわちAという作家が使う物語のパターンおよびレトリックのバリエーションを抽出して、〈辞書〉を作りあげ、その〈辞書〉の枠内で創作を行えばいいわけだ。実際に作りあげるのは相当な時間がかかるし、第一、不毛だが、現在、活躍中のエンターテインメント系の作家の何割かに関しては、これに近いものを作ることは可能なような気がしてならない。このベストセラー作家のソフトさえあれば、編集者は作家をカンヅメにしたり、とりたくもないご機嫌をとる必要など全くない。思いつきの設定や粗筋(だいたいこういうアイデアは編集者が出すものと相場が決まっている)を入力すればあら不思議、あっという間にノベル一冊出来上がり、ということになる。まあ、文章に多少の手に入れる、ぐらいのことはしてもよい。楽なものである。

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定本 物語消費論

大塚英志(著)
2001年10月25日
619円+税


つまり、NTTアドがサービス提供を開始する「CGM Watch」は、上の大塚のテクストで言われている「物語自動複製機」の逆バージョンだと考えていいだろう。

創造性エンジンそしてこれが可能なのか、と問われれば、私はある程度は可能だろう、と答える。

なぜなら、(テクストの)創造性とは、デコードされたデータの、エンコードであり、ハイブリッドであり、マッシュアップであり、そこにはパターン(構造=文法)があると考えているからだ――詳しくは「神話のアルゴリズム―創造性エンジン(改)」を参照してほしい。

つまり「CGM Watch」は、生成された物語(CGM)から、その構造を解析し、文法を利用してテクストを理解し、書き手の感性を最大81種類に細分化するとしているのだろう。

ところでCGMとは、Consumer Generated Mediaの略で、つまりは、Web2.0 memeでいうUser as contributor: 寄稿者、投稿者としてのユーザ、つまりユーザーの意見が力をもつ、とParticipation、Not publisshing:つまり出版のように押し付けではなく、ユーザーが参加して作り出すコンテンツ、のことである。

そのコンテンツはまるで『自由な日記スタイルで書かれた人生のひとりごと』なのであるが、たぶんその多くは反省の次元に送り込まれていない(深くデコードされていない)ことで、意外と書き手の感性を読むのは難しい、と私は考えてきた――つまり構造としては文法に縛られていない分だけ機械的に処理できるところは少ない、と。

しかし、それらでさえ日本語のテクストとして読めるわけで、最も基本的な構造を外れているわけではない――つまりギャル文字のような日本語ではないような日本語、アール・ブリュッドのようなテクストでさえ、機械的に生成できるのが、今の時代である。

であれば、その逆もまた可能なのだろうし、それが可能なのであれば、多くの人たちには気持ちの悪いことだろうが、「CGM Watch」のような機械に、書き手の感性さえもプロファイリングされてしまう時代なのだな、と思う。

そしてそれはやがて、母性としての(鏡像としての)インターネットからの、〈私〉に対する「名指し」として機能することになるだろう。

つまり(我々日本人にとっては)インターネットとは、でっかい母ちゃんでしかなく、せっかく手に入れた匿名の世界も、母性的ムラ化が進むことで匿名性は薄くなるのではないだろうか。

つまりこのようなシステムが進化すれば必ず起こるのは〈他者〉からのプロファイリングであって(それも機械という〈他者〉だ)、〈私〉の自分探しの答えは、インターネットが示してくれるようになる(のかも知れない)。

それはじつは、今でも機能しているように思える。ただ(私は)それがいいことなのか悪いことなのかはよくわからない――なぜならそれに埋もれてしまえば楽な時代なのではある。

苦労を強要する権利は(私には)ないし、なぜ私たちがインターネットという機械に奉仕するのかの理由もここにあるのかもしれない――つまり〈私〉を教えてくれる。

しかし、たった数十種類のパターンに分類された〈私〉が生まれるのはね、と思うのだが――まあ、星座占いの12パターンよりはましだろう、というオチ。(笑)

投稿者 momo : 2007年02月15日 06:56 : Newer : Older

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