玉子とじそば
午前6時30分起床。浅草は晴れ。
なぜだか無性に食べたくなるこの蕎麦の一番の特徴といえば、やはりあのふわふわとした黄色い溶き玉子だろう。
まるで敷き布団のように一面を覆う玉子を背景に、なるとの鮮やかな白とピンク、海苔とわかめの深緑が実によく映える。
そこへ深みのある茶色の蕎麦汁が合わさり、見事なコントラストを描いているのだ。
眺めているだけで、ふつふつと食欲が湧いてくる。
まずは蕎麦を手繰ってやろう。玉子をそっとめくり上げ、その下から引っ張り出すように手繰る。
少し固めの茹で加減だが、いつものようにズズッと手繰るのだ。
あー、やっぱり蕎麦がうまい(笑)。
そして、まるで膜を張ったような玉子を口へ運ぶと、どこか懐かしい味わいが広がる。
そう、この玉子とじは、昔おじいさんが作ってくれた玉子とじ(のような)懐かしい味がするのだ。
この旨さの秘密はいったい何なのだろうと思いを巡らせてみるが、結局いつも分からないまま。まあ、うまいのだからそれで良しとしよう(笑)。
蕎麦と一緒に玉子を手繰っていると、まだ蕎麦が食べられなかった子供の頃の記憶が蘇る。
貧しくて買えなかったわけではない。幼い頃のあたしには、蕎麦独特の風味がなんだか妙なものに感じられて受け付けなかったのだ。
それが今となっては、蕎麦でなくては満足できない身体になっているのだから面白い。
いつを境にあたしの舌が大人になったのかは覚えていないが、この蕎麦を手繰る習慣だけは、もう今さらやめられそうにないのだよ。
続いてなるとを口へ運ぶ。白地に映えるピンクの「の」の字が目にも鮮やかだ。
もっとも、「これが飛び切りのご馳走か?」と問われれば、まあそれなりの味なのだが(笑)。
途中で丼の海苔が余っていたので、蕎麦をクルリと巻いて食べてみる。鼻へスッと抜ける磯の香りが実に心地いい。
この「玉子とじそば」、なぜか無性に惹かれる一杯なのだが、考えてみれば『琴富貴』以外で食べたことがないのだよ(笑)。
琴富貴
東京都墨田区吾妻橋1丁目8-5

