桃知商店よりのお知らせ

プレゼンテーション能力の決定的な欠如―建設産業ビジョン懇話会から。

午前6時起床。浅草はくもり。昨日は、建行協主催の建設産業ビジョン懇話会に出席。お題は「建設産業のコンプライアンスを考える」で、主に、元-下の契約関係の不公平性についてのはなしだった。

パネラー(というか委員)は、国交省と下請けさんと有識者という構成なので、元請けの方がいなかった。なので、元請けの横暴さが非難されるばかりで、あたしは少々興醒めしたのだ。

ようは、仕事がないので(供給過剰、需要不足)、元請けは安値受注せざるを得ない状況なのだし、だから下請けにも安値発注する、というだけのことであって、この問題を解決するには、供給側を削減するか、需要を増やすか、それとも自由経済を放棄して、全てを官制で行う(つまり計画経済)でやるしか、経済学的には方法はないわけだ。


金魚鉢の中の金魚あたしの考え方は単純で、つまり地方の建設業というのは、金魚論の枠組みにしかなく、金魚というのは、きわめて人工的な環境に依存してしか生きられない。

だから、私とは私と環境のことなのであって、環境を救わなければ、私も救えない(@オルテガ・イ・ガセット)のは当たり前、ということだ。

だから問題は、その環境をつくりだしているモノなのであって、それは「元請け」ではない。「元請け」も「下請け」も同じ金魚という種でしかなく、環境ではない。

では環境とはなにか、といえば、このことに関して一番まともなことを言っておられたのは、弁護士の水津正臣先生だった。曰く、請負とは無から有を生み出す契約だということだ。

つまり、なにかを請け負うということは、プロとして、お客様が望むモノをただ実現するというだけのことではなく、お客様よりもはるかに優位な能力をもって、無を有に変えるというこだ。それには「信頼」が必要だと。

だから、われわれは、自らの能力に自信をもって、その能力をお客様にプレゼンテーションしなくてはならないと(懇話会では水津先生は「プレゼンテーション」ということばは使っていなかったが、懇親会で、それはプレゼン能力の不足ということですか、と尋ねたら、そうだ、と答えておられた)。

その能力に対する対価が契約の金額であれば、安ければよい、という今の風潮は緩和されるだろう、というのは、真っ当な意見だと(あたしは)思った。それは技術力と信頼への対価なのだから。

これを民間工事で実行するのは、ミクロ的な(つまり個々の会社の)経営の問題だから、個々の会社がそれぞれに自社の優位性をお客様にプレゼンテーションすればすむことであって、建設業に限らず、あらゆる請負に、これ以上の経営戦略はないだろう。

では、公共事業の場合はどうか。それはミクロの問題ではなくなってしまう。なぜなら、自らの優位性を示す相手はだかれか、といえば、納税者としての市民だからだし、さらにはプレゼンテーションをする当事者は誰か、といえば、それはまず第一に発注者である国、地方自治体であるからだ。

発注者が、市民社会に対して、自らの能力を自信をもってプレゼンテーションできないから、安易なマーケット・ソリューションに流れる。つまりあたしが『桃論』で、公共工事のプリンシパル・エージェント問題として指摘したことだ。

それがここまで環境を悪化させてきた大きな理由だろう。まあ、それよりも仕事量の減少こそが、環境悪化の根源である、というのはたしかだが、ではなぜ仕事量は減少するままだったのか、と考えれば、そこで見えてくるのは発注者の思考停止でしかないわけで、その理由もまた、発注者の思考停止を許してしまった、われわれ公共事業を請け負う立場の者の(発注者への)プレゼンテーション能力の不足でしかない、とあたしは思う。

それで昨日の結論は、われわれの業界も、もっと声を大きくしなくてはならない、というものだったのだけれども、まあ、そんなことは、「桃論」にはとうの昔に書いてあるのだけれども。w

それから追記で書くけれど、この問題っていうのは、ハンナ・アーレントの『人間の条件』だということかもしれないな、と思う。プレゼンテーションというのは、真に人間的な意味でのアクションなのか、ということが問われることになるだろう、ということだ。

動物的 レイバー(労働) 生物的な欲求
ワーク(制作・仕事) 職人的創造から芸術的な創造まで
人間的 アクション(活動) コミュニケーション 

Comment [1]

No.1

プレゼンテーション

この言葉の意味を私を含めて
(私は本当に分かっていない)
完全に分かっている人はどのくらいいるでしょうか

コンサルは駄目なものは駄目といい、いいものはいいといい
どうすればいいかきちんと説明するのが仕事だろう
そこで見目麗しくいいことだけを言う様な営業トーク的なプレゼンテーションなるものは必要なのか??

けど、今日の文を見て・・・ちょっと意味を履き違えているのかなあと思うこのごろです。

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