木馬亭 木馬亭
浅草 木馬亭


午前8時起床。浅草は晴れ。昨晩は木馬亭の「とんでも暴年会」へ。暮れの30日の夜、木馬亭は満員御礼で、席が足りなくてスチール椅子を出す盛況だった。笑いは不況に強いとは云われているけれど本当かもしれない。

この日のお目当ては快楽亭の師匠ではなくて、三遊亭白鳥さん。あたしは白鳥のスピード感溢れる噺が好きだ。白鳥の真骨頂は芸のうまい/へたを超越したところにあって、それはスピードである。「解釈は、貸借を満たすために、快速でなければなりません。」(@ジャック・ラカン)の快感である。

聞いている人間の、その解釈のスピードを、ぎりぎりまで速めてみせる、というのが白鳥の芸だと(あたしは勝手に)思っている。今回の噺の内容は放送禁止用語ばかりなので書けるようなものではないが(他の出演者も、皆同じだけれども)、スピードと切れは抜群であった。

しかし久しぶりの木馬亭は相変わらずぼろい。座席も狭くて古いから、あたしの長い?足はおさまりが悪く、約3時間の長丁場、座っていればお尻が痛くなる。前の席に座ったのはやたらと座高の高い女性だったので、正面を向いていたのでは高座は見えない。なので身体を右30℃ぐらいに傾けていたのだが、おかげで今朝起きたら右のお尻から腰にかけて痛かったりする。

しかしそんな身体的苦痛もたいして気にならない時間だったのはたしかで、特に元気いいぞうという芸人は、初めてみたけれど、びっくりした。「近江商人」から始まる歌で、あるフレーズ(~のしょうにん)であたしは口の中でなめていたフリスクを思わず前の女性の頭めがけて吹き飛ばしてしまった(そのフリスクは彼女の御髪の中に消えた)。もちろんそのフレーズも書けるわけもなく。

この日の演者は、快楽亭ブラック、立川談之助、三遊亭白鳥、瀧川鯉朝、元気いいぞう。つまり彼らの演じる芸は、例えばあたしが贔屓にしている遊喬さんや歌橘さんの演じるやる落語とはあきらかに違う座標にある。しかし笑いは生まれる。つまり目的地は同じだったりするのであるが、回路が違う。

つまり和喜智の楽しさというのは、真空管がトランジスタになるような楽しさ、トランジスタがICチップになるような楽しさ、つまりいつもと違うんだけれどもめざしているところは同じ、けれども回路は書き換えてみました、というところにある(ちょっと違うか)。

けれどそれを続けてしまうと客も緩みっぱなしになって逆に疲れてしまうから、ちゃんと基本オーソドックスな技もだす。真空管である。それは緊張と緩和(@桂枝雀)なのであって、和喜智の寿司は、落語の王道をいっていたりするわけだ。鮨菜 和喜智で笑う寿司ランチ。(札幌市円山) from モモログ

しかしこの回路の違いは、ポルノグラフィの生み出すショートサーキットであって、それは演じる者の哀しさを際だててしまう。だからその哀しさを覆い隠そうとして、芸はさらにあらぬ方向に邁進する。それはさらに芸人の哀しさを際だててしまう、なのでその哀しさを覆い隠そうとして……とりとめもなくなる。だから木馬亭は笑いに包まれながらも、悲しい裏心に溢れていた。

帰りは居酒屋浩司のおやじと飲みながら語る夕べ(最近多い)。それからFOSでおしゃれな寝酒。今朝起きれば病気は少し悪化していたりする大晦日だ。

浅草 木馬亭
台東区浅草2-7-5
03-3844-6293

路線&徒歩 路線&徒歩ルート

木馬館 大衆劇場