どうする過疎法/地域の自主性引き出して
都市に住む者が、日常的に農山村の現状に思いを致すことは難しい。のどを潤す一滴の水が、森林の健全さに担保されていることを「知識」として理解はしていても。
美しい国土が、驚くほど少ない人たちの手で維持、管理されていることに気付かされるのは、旅に出たときぐらいか。放っておけば途切れてしまう都市と地方の回路を結ぶのも政治の役割だろう。
戦後、国は公共事業や地方交付税などを手厚く配分することで地方の暮らしを下支えしてきた。「国土の均衡ある発展」という戦後国土政策の理念が最も鋭く問われたのは、過疎問題においてだった。
2010年3月に期限切れを迎える過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)の後継法制定をめぐる動きが本格化してきた。国、地方財政が厳しさを増す中、過疎対策にも一層の「集中と選択」が求められている。
過疎法は1970年に10年間の時限立法で制定され、これまでに3回更新された。人口減少率や財政力指数など一定の要件を満たせば、過疎対策事業債の発行や国庫補助率のかさ上げなどが認められる。
新法でまず議論になりそうなのは、市町村合併に伴う指定要件の見直し。全域で指定するのか、旧自治体ごとに過疎地域とそうでない地域を混在させるのか、地域の一体性確保の観点から慎重な対応が求められよう。
最大の焦点は、歴代過疎法が貫いてきた「ハード重視」の理念から脱却できるかどうかだ。
即効性と所得の再配分を通じた格差是正を追求した結果、過疎対策のメニューは道路や橋の建設など公共事業に傾斜しすぎた。そんな反省が当の過疎地域からも出ている。
立派な道路ができるのは結構。だが、高齢者にとっては、買い物や通院に使うコミュニティーバスなどが運行されていなければ、生活の質は向上しない。
法律名にあるように過疎地域の「自立」を促すためには、新たな産業づくりや都市との連携など、ソフト面を意識した事業を拡充していく必要がある。だ。ポスト過疎法には、地域の自主性や逆転の発想を支援する柔軟な取り組みが求められている。
(略) 2009年06月28日日曜日 河北新報 コルネット 社説 どうする過疎法/地域の自主性引き出して
公共施設整備で有利な地方債の発行を認めるなど、過疎地への国の支援を定めた過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)※1が2009年度末で期限切れとなり、後継法制定をめぐる動きが本格化してきた。※2
過疎法は「1970年に10年間の時限立法で制定され、これまでに3回更新された」。そして多くの地方が4回目の更新を望んでいるのは、過疎法は開発主義の文脈にあるからでしかなく、つまり未だに地方は開発主義の文脈で生きているからだ(たぶん)。
from 桃組夏季勉強会で使用したPPT―開発主義の終焉と公共事業という産業。
現行の過疎法の正式名称は「過疎地域自立促進特別措置法」であって、「自立」をキーワードに(つまり「金魚論」からの脱却に)この法律の成否をみればそれは見事に失敗しているといってもいいだろう。
それはある意味当然のことで、「過疎法」は産業化において優先される都市部の影の部分(二者択一のうち切り捨てられたもの)としての地方への配分法であるからだ。
「過疎」とは産業構造の変化に伴い起こる労働力の農山村部から都市部への移動であり※3、「自立」しようにも若い労働力は過疎地には残らないし(労働力の再生産不全なのである)、この法律のいう「自立」とは開発主義的には「消費者」としての自立でしかないのである。
つまり村上泰亮の開発主義プロトタイプ※4では、「5.配分を平等化して、大衆消費中心の国内需要を育てる」を担うのだが、より現実的には(というかそもそもは)、切り捨てられたものとしての「地方」の反乱を抑えるための政治的な手段であったといっていいだろう(それは「過疎法」ばかりではなく農業や離島に対する優遇法などもだ)。
しかしそれが結果的に実現させた社会は、公共工事によって道路をつくり、公共事業を中心に所得を得、消費者として自動車を持ち(国内自動車産業を内需として支えてきたには違いない)、今までなにもなかったところに大型ショッピングセンターを出店できるようにし、そこで買い物をする「消費者」として自立したということなのか。
このスキームの中で自民党的な政治は確立されてきのもたしかだし、あたしら(公共事業という産業)はその片棒を担いできたことも否定はしない。
小泉さんは自民党をぶっこわすといったけれど、彼が壊そうとした(というか現実的に壊したものは)この開発主義のスキームでしかない。
そして開発主義のスキームを毛細血管にようにして担ってきた地方の中小建設業(公共事業という産業)も、そしてそのスキームでしか生きていけない地方経済も、破壊されてしまった(のは小泉さん的には当然のことでしかない)。そして開発主義政党である自民党は断末魔である。
今後の政局の成り行きでは、政権与党がどうなるかはわからないけれども、過疎法は今後のこの国のシステムを考える為の指標となるだろう。
はっきりいえば、この法律は(政策的には)なくせない。
しかし自民党であれ民主党であれ、最大の焦点は、歴代過疎法が貫いてきた「ハード重視」の理念から脱却できるかどうかであることに異論はなく、あたしたちは開発主義スキームの書き換えをしなくてはならないのだ(それもギリギリのところで、というかもう遅いのかもしれないけれど)。
繰り返しの引用になるが、
都市に住む者が、日常的に農山村の現状に思いを致すことは難しい。のどを潤す一滴の水が、森林の健全さに担保されていることを「知識」として理解はしていても。
美しい国土が、驚くほど少ない人たちの手で維持、管理されていることに気付かされるのは、旅に出たときぐらいか。放っておけば途切れてしまう都市と地方の回路を結ぶのも政治の役割だろう。
なのである。けれどそこに公共事業という産業はニッチをみつけることができるのだろうか。
※注記
- 過疎法(1999年11月10日)現行法は過疎地域活性化特別措置法。人口が著しく減少した地域の生活環境整備などを図り、地域格差の是正などを目的とした議員立法による法律。財政力指数が全国平均以下で、一九六○年から二十五年間の人口減少率が二五%以上や高齢者の比率が一六%以上などの場合に過疎地域の指定を受ける。四月一日現在で、千二百三十市町村。指定されると事業費の七割を起債で賄え、返済の大半が地方交付税で充てられる過疎対策事業債を発行できるほか、下水道事業などを都道府県に代行してもらえる。 Powered by 47NEWS
- 参考: 47news.jp での 過疎法 の検索結果
- 過疎地域(2003年8月4日)人口の減少が著しく、財政力が弱い地域で、高齢者が多いのが特徴。過疎地域自立促進特別措置法の規定では①1970年から25年間の人口減少率が19%以上②60年から35年間で人口減少率が30%以上―のいずれかを満たし、財政力指数が0・42以下。また最近35年間で減少率25%以上で、年齢65歳以上の高齢化率が24%以上か、年齢15―29歳の若年者層比率が15%以下が要件。過疎市町村の99%以上が人口3万人以下。 Powered by 47NEWS
- 村上泰亮による開発主義政策のプロトタイプ・モデルは次の8項目からなる(村上泰亮, 『反古典の政治経済学 下 二十一世紀への序説』,中央公論社,1992,p98-9)。
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- 私有財産制に基づく市場競争を原則とする
- 政府は、産業政策を実行する
- 新規有望産業の中には輸出指向型の製造業を含めておく
- 小規模企業の育成を重視する
- 配分を平等化して、大衆消費中心の国内需要を育てる
- 配分平等化の一助という意味も含めて、農地の平等型配分をはかる
- 少なくとも中等教育までの教育制度を充実する
- 公平で有能な、ネポティズムを超えた近代的官僚制を作る