岩手がもの鴨せり鍋岩手がもの鴨せり鍋


根っこを食う

盛岡の夕餉で食べたものが実に素晴らしかった。「せり鍋」である。それは「せり」の根っこを炊いて食べる「せり鍋」で、この日お世話になった丸内の「808(ハチマルマチ)盛岡桜山」という処で出された鍋だった。

「せり」は根っこを食べる、とは聞いていたが、実際に「せり鍋」で食べるのは初めてのことだ(たぶん)。「せり鍋」の最大の特徴は「せり」の根っこが付いてくることで、この根っこから、いいダシと強い香りが出でくるのだろう(たぶん)。

しかし、出された具材の異様さは、これが普通の食べ物ではないことを物語っていた。まるでスーパーサイヤ人の髪の毛のように、根っ子が上に逆立っていて、しかも、これは子供には食えないものである(たぶん)ことを誇示している。それが目の前に大量にある。

岩手がもの鴨せり鍋

聞く処によると、この「せり鍋」は仙台の名物だと云う。そして、その為の「せり」を岩手県内でつくっているのだとも聞いた。なるほど、これは仙台人の為に作られていたものを、岩手県産の鴨とあわせることで、岩手の人達に食わせようとしている。

そして、岩手県人でなくとも食うのだ。

何県の物だろうが、あたしは浅草の人である。うまいものはうまいし、ますいものはまずい。そんなあたしが「せり鍋」を食べる。醤油の効いた、そして出汁の利いた黒い汁が素晴らしい。それに油麩が控えめに、されど味の決め手はあたしなのよ、と身構えていた。

あーこれは強烈なのだ。最初に油麩を、それから「せり」の根の部分を入れてやる。やがて茎、そして最後に葉に部分だ。しかも一緒に炊くのは鴨なのである。それが炊く為の鴨としゃぶしゃぶ用の鴨に分かれている。芸が深い。

そして、煮えた根っこを食べてみる。あーほろ苦いぞ。しかし、それがまたうまいのだ。「せり」の魅力はなんといっても独得のほろ苦さと、香りの強さだ。その香りが消えないようにとむさぼり食ったのだ。

せりと油麩

鴨

808(ハチマルマチ)盛岡桜山
岩手県盛岡市内丸4-4-14