現行の入札制度の問題点

さて、このような「発注者がものを作るという視点」を維持しながらおこなう「マーケット・メカニズム」の公共工事への導入は、制限付き一般競争入札制度のように、自由競争ではなくただの指値制度にしかなれません。このような調達のシステムできちんと積算をして入札に臨む業者はいないでしょうし、この入札制度は最低制限価格を予想するギャンブル化してしまっています。落札できるのもできないのも時の運、このような市場で、どうしたらいい会社になれるのか、などと考えることは、考えること自体が無駄なことでしかありません。こうして中小建設業は思考さえもとめられてしまうのです。


すなわち、「似非マーケット・ソリューション」が主流な公共建設市場も、差別化とコア・コンピタンスを「いらない」といっているに過ぎません。ここでの競争は価格によって行われていますが、それが各社の経営努力の結果ではありません。ですから、当然に、ここでもIT化のインセンティブはどこかへ消えてしまっています。そして、中小建設業からIT化はますます遠ざかってしまうのです。

IT化へのインセンティブに関していえば、「配分のルール」の対極のルールと思われている「似非マーケット・ソリューション」も、結局は失敗しているに過ぎません。IT化への意欲は、中小建設業が自ら経営体質改善への意志を持つということでは大変重要なものですが、どうやら発注者はそんなことはお構いなしのようです。

IT化推進論者で、このような「似非マーケット・ソリューション」を賞賛する方々は意外に多いものです。そして、そのような方々からは、「工事発注状況」を確認するためにインターネットを利用しているではないかとか、官主導のCALS/ECが、「中小建設業のIT化」を進めるから心配はいらない、という反論も聞こえてくるのです。しかし、それこそが、インターネットをファックスや電話の延長上に考えているだけに過ぎないことを理解すべきなのです。このようなはなしを平気でするような方々を、私は、IT化推進論者とはとても思えないのです。

二つのソリューションの限界

さて、私たちはIT化の遅れの原因を、市場を支配するルールの問題という視点で考察してきました。その結果、配分を重視したルール(ヒエラルキー・ソリューション)も(似非)マーケット・メカニズムを重視したルール(マーケット・ソリューション)も、結局はIT化の阻害要因にしかなっていないことが理解できるかと思います。

結局、現行の入札制度の問題点はふたつあります。

  1. 落札者の決定指標として価格の偏重
       →これが「似非マーケット・ソリューション」の問題点です
  2. 入札制度が利権構造をつくり出している点
       →これが「ヒエラルキー・ソリューション」の問題点です

これらは、開発主義の残像上でのふたつのソリューション(問題解決策)がおこなわれることの限界なのです。今までの経済学が考え出したルールは「政府が介在する(ヒエラルキー・ソリューション)」か、「市場に任せる(マーケット・ソリューション)」のふたつしかないのですが、それを司るのは、わが国ではいつでも「お役人」だという前提が取れていません。その前提が取れない限り、このふたつの対極のルールは、結局どっちに振れても、「今という時代」には中小建設業には淘汰の原因ぐらいにしかなれないのです。