信頼というメタ情報

ここで本書が、市場のなにに焦点をあてようとしているのかは、すでに十分察しがつくことだと思います。それは、人々の経験と解釈と信頼の蓄積を反映した、メタ情報(情報の基盤となる情報)としての「信頼」というようなものです。金子郁容は、

〈信用とは情報の情報である〉


といいます(金子,2002,p242)。つまり、「信用は交換のメタ情報である」ということですが、金子のいう信用というのは、本書における信頼と同じものだと理解してもいいでしょう。また信頼がメタ情報であるということは、アローのいうように、信頼は社会システムの重要な潤滑財であり、それが社会システムの効率を高めることはたいへんなものがあって、さまざまな面倒な問題が取り除かれるということです(ケネス・J・アロー,『組織の限界』,村上泰亮訳,岩波書店,1999,p16)。つまり、社会的交換であろうと経済的交換であろうと、信頼関係が成立していなければ、非効率で高上がりものとなってしまうか、そもそも交換自体が成立できない、ということです。つまり、経済的交換においても、

〈信頼は効率を高める要〉

として機能するものなのです。

つまり信頼は、経済的交換に限らず社会生活を円滑におこなうための潤滑財とでもいえるものなのですが、私は信頼こそが「ソーシャル・キャピタル」の中核にあるものだと考えています。このように、経済的交換においても、社会的交換に基礎を置く「信頼」が潤滑財として大きな役目を担っている、という視点を持つことが、社会的交換の視座から産業化を再構成する考え方であり、従来のマーケット・メカニズムにのみ依存している、と考えられている経済的交換を、社会的交換の特殊ケースとして考える方法の特徴なのです。

ここで私たちの関心を、こうまとめることができるでしょう。それは、

  • 公共建設市場での信頼ってなんだろうか
  • 公共工事の信頼ってなんだろうか
  • 中小建設業の信頼ってなんだろうか

ということです。