公共工事の構造

[図3] 公共建設市場の二重構造
[図3]公共建設市場の二重構造

公共建設市場を、発注者(自治体)を頂点とした関連図でみると、ここには[図3]のようなふたつのヒエラルキー構造(ピラミッド)をみることができます。よくマスコミが知ったかぶりで、「スーパーゼネコン→準大手→中小建設業」という、ひとつのヒエラルキーで中小建設業の位置を説明しようとしていますが、それは今のところは大間違いです(でも将来はそうならないとは限りませんが)。


公共建設市場には、(今までのところは、という注釈付ですが)全国区と地方区のふたつのヒエラルキー構造が存在しています。そして、その公共建設市場も大手は大手、地元は地元とそれぞれに二分化されています。それは「縄張り」とでも表現した方がわかりやすいかもしれません。公共建設市場には、全国区と地方区の「縄張り」が存在しています。それは官公需法や入札時における地域要件のような形で表出されていますが、そうでなければ、建設業界に許可業者が 五十七万社もいるような産業構造にはしたくともできるものではありません。

では、まずひとつ目のヒエラルキーを見てみましょう。それは国土交通省を頂点とした大手・中堅ゼネコンを中心としたものです。ここにはゼネコンの名義人、下請としての中小建設業も重複して存在しています(ふたつの三角形が重なっているところ)。

そして、ふたつ目は中小建設業と発注者としての自治体を頂点としたものです。ここが本書のいう「地場型中小建設業」が活躍する市場です。

しかし、北海道は私の知る限りちょっと変わっていて、北海道開発局を飲み込んだ国土交通省のヒエラルキーは存在するのですが、これは北海道庁のヒエラルキーと完全にダブるところがあります。北海道の中小建設業の受注割合は、その多くが、道庁関係と開発局関係が限りなく 50:50に近いものですが、端的にいってしまえば、北海道においては国土交通省(北海道開発局)も自治体のように振舞っている、ということでしょう。私は、北海道開発局は自治体だと思っています。沖縄は関与事例が全くないためわかりませんが……。

さて、この図におけるふたつの三角形の大小は、それぞれの公共建設市場シェアの大小を示しています。それは公共工事のうち、自治体発注のものが件数で全体の約九割、発注金額で約七割を占めているということを概略的に表現している、と思ってください。このように、「公共工事という産業」は二重構造で形成されているのです。

そして公共工事は圧倒的に地方で多く行われているのですが、それは、「自治体→中小建設業ヒエラルキー」での工事が、開発主義における配分を大前提としたものであることを考えれば当然のことでしかありません。そしてこのふたつのヒエラルキーは、「なぜ中小建設業のIT化は進展しないのか」という疑問に対して次のような推論を可能にしてくれるはずです。

〈自治体発注の公共工事はIT化を必要としていない〉