経営者の不信感

しかし、この「市場のルールによるIT化の阻害」だけで、「中小建設業のIT化」の遅れをいうのも不十分なのです。それは、いくらコンピュータにお金をかけても仕事はとれないという感覚は、大なり小なり行われてきた、個々の企業における情報化投資においても存在するからです。つまり、ミクロ的な個々の経営においても、「なにかがIT化の阻害をしている」ということです。


「中小建設業のIT化」は総じて遅れていることは先にも指摘しました。しかし、この時代に全ての経営者が全くなにもしていないわけはありません。変革の潮流に敏感な一部の経営者は、なにかしらの情報化投資は行っているものです。先の建設業協会の例でみれば、コンピュータの導入数は一人当たり0.62台もありますし、社内LANの構築は41.3%の方々が行っています。

うちにだってパソコンもあればLANぐらいひいてある、という方は、たくさんおられるはずです。でも、「それでなにかいいことがありましたか」とたずねれば、多くの経営者は、「ないかもしれないなぁ」とあいまいに答えるだけでしょう。それぐらいコンピュータへの投資効果は見えないのです。そして、その現実が経営者を悩ませているのです。「ちゃんといわれたとおりにやったのに・・・・・・」

この「コンピュータを買ったのに投資効果がみえない」という経営者の落胆ときたら、全社員にメールアドレスを配布している会社が5.7%、現場から利用できるイントラネットを構築している会社がたったの1.3%という具合に、インターネットを完全に邪魔者扱いしてしまっています。

さらには、この問題は公共工事依存の企業だけでなく、民間工事を主体とする会社でも同じような状況であることで、「市場のルールによるIT化の阻害」だけでは、中小建設業のIT化のおくれは理由がつかなくなってしまっているのです。

公共工事については「市場のルールによるIT化の阻害」で、IT化の遅れを説明することはできるでしょうが、本来、他社との差別化戦略や、コア・コンピタンスが勝負の分かれ目になるはずの民間工事でもIT化が遅れているのはなぜなのでしょうか。

この市場でも投資効果がみえなとすれば、それは「市場のルールによる障害」が全ての理由ではないはずです。多くの経営者はそのことには気が付いているかもしれません。でも、理由がわからないのでいるのです。その「わからない」という不信感こそが、IT化の有効性を疑い、IT化に対しての積極性を失わせている原因のひとつなのです。それは、この問題の根源は経営者の意識になかにある、ということです。つまり、こういうことができるでしょう。

〈経営者のコンピュータの有効性に対する不信感がIT化を遅らせている〉