ふたつの技術のミーム

ここまでの理解を基に、私たちはようやく中小建設業における「技術のミーム」を考察することになります。それは、中小建設業では競争力とかコア・コンピタンスを明らかにすることなのですが、ここでは、便宜的に「技術のミーム」をふたつに分けて考えることにします。


  1. 「技術のミーム」のうち、技術的な色彩の強いものを「狭義の技術のミーム」
  2. 「なんだかよくわからないけれども人を束ねる力を持った情報」を「広義の技術のミーム」

と呼ぶこととします。

まずは、中小建設業における「技術のミーム」を思いつくままに書き並べてみましょう。

  • 建設業許可の有無
  • 技術職員数
  • 経審の点数
  • 営業年数
  • ISO9000’s、14000の認証取得の有無、等々。

ここには「お役所さん」からいわれたとか、いわれそうだとか、そのようなものが並んでいます。これらは公共建設市場を形成する「技術のミーム」ということができます。

ここで注意してほしいのは、建設業許可や、経審の制度や、一級土木成功管理技士の認定制度や、ISOの認証などという仕組みや制度は、規格化と定量化の枠組み合意であり、つまり第二種の情報であるということです。そして、そのような規格化と定量化の枠組み合意の上の「値」、つまり、技術者の数とか、経審の点数とか、ISO認証に有無が、第一種の情報として「技術ミーム」を表現してる、ということです。

これらをみると、中小建設業がターゲットとするような公共建設市場を形成している「技術のミーム」は、発注者の要求が受注者(中小建設業)側の技術のミームの形成を促しているものであることがわかります。つまり、

〈中小建設業の「技術のミームは発注者が作り出したもの〉

なのです。これらは、受注者(中小建設業)の能力証明を第一義とするものであり、「狭義の技術のミーム」に分類できるものです。ただし能力といっても、これらを手に入れるのは特段難しいことではありません。例えば、私には配分のルール上の「公共工事定義」がありますが、それは、

 〈誰でもできるから公共工事〉

というものです。中小建設業の「技術のミーム」は、この定義からはずれることはありません。そうでなければ、地場経済の活性化と雇用の確保の公共工事は存在できませんし、配分のルールでは発注者であろうとする自治体も自らの立場を失うだけでしかないのです。誰でもができるようなものでなければ、それは特命契約ですし、特殊な技術が必要であれば中小建設業はそもそもお呼びではないのです。つまり、中小建設業の「技術のミーム」は、複製のしやすさをその第一の特徴としているということです。

これを、村上泰亮に倣っていえば、公共工事の「技術のミーム」(生産技術)が、ある時代の社会的環境下で複製(模倣)されやすければ、その生産技術を利用しようとする企業は皆同じような具合で増えていく、となるでしょう。そしてさまざまな経済的交換とその可能性への期待が、それらの企業群を結び目として束ね上げ、「配分のルール」に依存する「公共工事という産業」とそれにまつわる建設関連業を形成してきた、ということです。

公共建設の「技術のミーム」は、ある時代の社会的環境下で複製(模倣)されやすいものだったのです。そしてその環境が長く続いたために、非常に多くの企業数と雇用をかかえてしまっているのです。その「ある時代の社会的環境」とは、もちろん開発主義的な政策と、それに続く既得権益の形成の流れですが、その制度・慣行が、「今という時代」にはそぐわないことで「公共事業という問題」は露呈せざるをえないのです。