中小建設業の技術のミーム

さて、ここにみられる公共建設工事の「技術のミーム」は、受注者(中小建設業)が主体となってつくり出したものではなく、発注者によって規定されたものであることに特徴があります。これは、公共工事における技術や技術者を(かつては)発注者が独占していた、過去の残像のためですが、「技術のミーム」の形成が発注者の要求に規定されていることで、中小建設業は「金魚論」の枠組みから開放されることを許されないのです。


先に産業の生成で見たように、伝播力の強い「消費のミーム」が形成されれば、それが「産業を規定する力」として機能します。つまり、配分のルールに依存する「公共工事という産業」は、まさに発注者という「消費のミーム」に規定された産業なのです。ただしこれにはある前提条件が存在しています。それは、産業を規定する力としての「消費のミーム」の持ち主が発注者(行政・自治体)だとすれば、発注者の内部で「技術のミーム=消費のミーム」が成立していなければばらない、ということです。

これをわかりやすく言うとこうなります。発注者は受注者(中小建設業)にとっては「消費のミーム」の持ち主ですが、実は公共工事は「つくっている」のが発注者である限り、発注者自身が「技術のミーム」を持つことになります。この場合、受注者は自ら「つくっている」わけではありませんから、受注者側の「技術のミーム」は発注者側の要求を超える必要はないのです。つまり、言われた通りにやっていればよいのであって、ここは頭を使って餌を確保する方法を考える必要がない市場ではありません。

中小建設業には「コア・コンピタンス」がない

このような市場特性に立脚する中小建設業は、企業としては、かなり不思議な存在です。通常のビジネスであれば、売り手であるメーカーや販売店の方が商品に関する情報については優位です(情報の非対称性)。「コア・コンピタンス」が機能するのはこの図式があってのものです。だからこそ市場では「競争力」や「かんばん」や「評判」という言葉が意味を持つのであり、各社、技術開発や宣伝・広報などでしのぎを削るのです。

しかし、中小建設業にそれらを見つけることは困難です。はっきりいえば、

中小建設業には「コア・コンピタンス」がない

のです。

公共建設市場の「技術のミーム」は、発注者、すなわち「消費のミーム」の持ち主の方が優位にあることが前提であり、その上、その「技術のミーム」は恐ろしく複製が簡単にできるモノです。ですから、〈中小建設業には「コア・コンピタンス」はない〉のであり、つまり、公共建設市場とは、市場そのものがコア・コンピタンスを要求しないように振舞ってきた市場なのです。

このことは、中小建設業の「技術のミーム」が、「公共建設市場の参入要件」のようなもので、「他社に対する受注優位のための条件ではない」ということを意味しています。

中小建設業を営む(もっと狭い意味では公共事業を受注しよう)としたら、これらの「技術のミームは最低限の適応課題(クリアしなければならないハードル)であって、それがクリヤできればビジネスは必ず成功するという保障ではありません。その意味では、先に挙げた中小建設業における「技術のミーム」とは、どちらかといえば「狭義の技術のミーム」であり、受注に結びつく、人を束ねる力を持っていたとしても、それはかなり弱いものでしかない、ということです。