午前4時45分起床。浅草は雨。

昨日は、東洋館(旧浅草フランス座)へ行ってきた。お目当ては、鳥肌実である。

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鳥肌黙示録



鳥肌実
2001年12月5日
ことり事務所
1575円


番組変更

半分以上の番組が終わった頃――ちょうど「キャン×キャン」の漫才が始まっていた――に入った。番組表によれば、残りの演目は次のようになっていた。

  • ヘブリスギョン岩月(一人コント)
  • 三 拍子(漫才)
  • 鳥肌実(漫談)
    ― 仲入り ―
  • 東京ユニット(コメディ)
  • 青空たのし(ハ-モニカ漫談)
  • 晴乃ピ-チク(一人ドラマ)
  • サムライ日本(チャンバラコント)

鳥肌実は、中入り前の主任である。ちょうどよい時間だな、と思っていたのだが、出番になっても、なぜか彼はでてこなかった――その前にヘブリスギョン岩月も出てこなかったのだが――。三拍子の後に、青空たのし、東京ユニットが前倒しで演じ、中入り前を〆た。鳥肌実は遅刻でもしたのか、と思ったが、中入り後、最初に彼は出てくる、とアナウンスがあった。

中入り前は、青空たのし師匠と東京ユニットが制してしまったので、昭和の笑いとでも云える、のほほ~んとした雰囲気に会場は包まれていた。この雰囲気に、鳥肌実は存在できるのだろうか、という心配と、彼の信者だけではない観客の前で、彼は、どんな芸を見せてくれるのだろうか、という期待感が、私の休憩時間を支配していた。

鳥肌実

中入り後、彼は出てきた――このタイミングはよくなかったと思う――。出し物は、"息子の~"シリーズ。オオクワガタを息子に強請られ、スーパーに買いに行くが、高くて買えない。なので、代わりにミヤマクワガタを買って帰ると、息子にも嫁にも馬鹿にされる、というような噺。彼のアバンギャルド性は抑えられてはいたが、東洋館はお年寄りの客が多いので、ちょうどよいかな、と感じた。それでも、彼の芸に、多くの方は、ついていけないようだ。が、まだ期待感はある。

そして二発目は、「敬語でセックス」。この噺自体は悪くはない、とは思うのだが、客層がね……、というところだろう。そして持ち時間を大幅に余したまま、彼は突然――そう突然としかいいようがないようなかたちで――出番を終えてしまう。彼を目当てにきた若い客は、失望感をあらわにしていた。私も、期待が大きかっただけに、なにか不完全燃焼である。お年寄りにしてみれば、速く終わってよかった、というところだろうか。(笑)

ヘブリスギョン岩月

まあ、芸は生ものだから、こんなこともある。と気を取り直すが、問題はこの後なのである。ヘブリスギョン岩月という芸人は、初めてみた。簡単にいえば、泣き芸である。泣きながら話す芸である。それはシュールな芸を狙っているのは分かる――個人的には好きな芸風ではある――。が、表現力がそれに追いつかない。

なので、中入り―鳥肌実で冷めた、そして鳥肌実狙いの客の多くが帰ってしまった会場に、ペギラが冷凍光線を浴びせかけたような――実際に会場は冷房の利きすぎでかなり寒い――、強烈な"寒さ"が漂う。それはある意味凄いのだが。(笑)

春乃ピーチクは本物のトリックスターである

このまま終わってしまえば、プロレスなら暴動ものだろう。が、この場を救ったのは、春乃ピーチク師匠であった。師匠が舞台に登場したとき、私は時計を確認した。というのも、昨日の催しは、午後四時三十分終演なのである。ピーチク師匠が出てきた時点で、まだ三時三十五分、寄席での芸人の持ち時間というのは通常十五分なのであり、このままではとても四時三十分まで、もたないわけだ。

つまり、ピーチク師匠は、冷めた場を修繕し、場を持たせ、昨日のもう一組の主任である、サムライ日本に場を引き継ぐ、と云う仕事をしなくてはならないはずだ。つまりキアスムで云うトリックスターである。――この出来事を受け入れてピーチク師匠の全人格を賭けて場の雰囲気を変える――私はそれを期待したのだ。

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そしてそれは、期待以上のものだった。三十分以上、彼はしゃべり続けた。これが絶妙なのである。無理も淀みもない、そして"きれい"である。客を適当にいじりながら、場を修繕し、場を構築していく。残り五分頃、客を舞台に上がらせ、似顔絵を描きながら、掛け合いで漫才までやってしまう。私も心から笑わせていただいた、と同時に、芸の深さをまざまざと見せ付けられた。

ピーチク師匠の言葉。

酒、煙草、女、これはあんまりやりすぎちゃいけないよ。そして、何事も無理をしちゃいけないよ。考えすぎちゃいけないよ。健康に悪いから。(笑)

サムライ日本

そしてピーチク師匠が見事に作った場を引き継いで、サムライ日本はいつもより一本多くやってくれた。踊りまでつけてくれた。それは古い芸かもしれないが、「神話のアルゴリズム」は機能している。つまり、会場に入る前よりも、すこしばかり元気になって、私は会場を後にすることができた。