対極のルールの失敗 

しかし、私たちが目にする現実は、「配分のルール」によるIT化意欲の欠如だけでは、中小建設業におけるIT化の遅れは説明できない、ということです。つまり、「配分のルール」の対極の方法として台頭してきている、自称「マーケット・ソリューション」にも、「配分のルール」と同じように「市場のルールによるIT化の阻害」をみることができるのです。


(自称)市場原理主義者

世の中には、なんでも「マーケット・メカニズム」が解決してくれるとする(自称)市場原理主義者がたくさんおられますが、それはインターネット社会の「G軸」への方向性と迎合しあいながら勢力を伸ばし、最近の風潮は「マーケット・メカニズム」を重視する傾向をますます強めています。そして、その影響力は公共建設市場を例外とはしてくれていないようです。

たとえば、公共建設市場では「制限付き一般競争入札制度」のような、「マーケット・メカニズム」を前面に打ち出したとされる入札制度を採用する市町村が増えてきています。そしてこれらは「マーケット・メカニズム」が機能することでのコストの削減と透明性の確保をそのルールの正当性の根拠にしています。

これは、第一義的には、政府の財政難からの公共工事の原資縮減への対応と、「公共工事という産業」に内在する不正行為、つまり、官製談合や収賄斡旋のような行為の排除とその撲滅を目的としていることを意味していますが、その真意は、公共工事批判(公共工事ダメダメミーム)へ「マーケット・ソリューション」標榜することで対応しながら、自治体が「公共工事という問題」から自らを切り離すことで、発注者としての正当性を主張し、その地位を確かなものとしようとしていることでしかありません。

ですから、形態こそ「マーケット・メカニズム」を前面に打ち出すことで「マーケット・ソリューション」を標榜してはいますが、このルールも「配分のルール」同様、競争の必要性は二の次でしかないのです。なぜなら、

〈制限付き一般競争入札はじつはヒエラルキー・ソリューションである〉

からであり、

〈制限付き一般競争入札は中小建設業の経営努力を認めない〉

仕組みでしかないからです。

似非マーケット・ソリューション

ですので、私はこのルールを「似非マーケット・ソリューション」と呼んでいます。なぜなら、このようなルールが支配する市場では、中小建設業がいかに「技術と経営に優れた建設企業」になろうとIT化に取り組んだところで、その経営努力(投資)は、このルールでもまた、受注のためのなんの根拠にもなれはしないからです。

つまり、「制限付き一般競争入札制度」という問題解決方法もまた、個々の中小建設業の経営努力を認める仕組みを内在してはいません。IT化が「技術と経営に優れた建設企業」に結びつくものだとしても、その取り組みが「制限付き一般競争入札制度」の下で、直接受注に結び付くことはありません。「似非マーケット・ソリューション」が支配する公共建設市場もまた、経営学が説く理想と現実の矛盾にさいなまされる仕組みを持った市場でしかないのです。

では、このことを、松阪市における「制限付き一般競争入札制度」の結果を事例として考えてみましょう。