考える人 2013年 05月号

考える人 2013年 05月号 [雑誌]

2013年4月4日
新潮社
1500円(税込み)


『有次 包丁をつくる人、つかう人。』

午前5時15分起床。浅草は晴れ。雑誌『考える人』の最新号は、小林秀雄の特集なのだが、あたしは、江弘毅の書いた『有次 包丁をつくる人、つかう人。』だけを頼りに買ってみたのである。

江弘毅と会う度に云われるキーワードは、「有次」であり「堺」であり「村上水軍」なのだが、そのつながりが分からないから、こちらはただ漠然と聞いているだけなのだ。

『有次 包丁をつくる人、つかう人。』よりしかし、その漠然と聴いている、というのが、なぜか悔しくて、江弘毅が『波』に連載しているという「有次と包丁」を手に入れて読むしかないのか、と思っていた。

そこに『考える人』の最新号である。江弘毅の書いた『有次 包丁をつくる人、つかう人。』である。あたしは、神の助け、とばかりに注文したのだ。

有次 包丁をつくる人、つかう人。』は、決して長いテクストではない。しかしどこから読んでも江弘毅である。

たとえば、『「京都ブランド」の陰にかくれてメイドイン堺という事実は案外しられてないが』、なんてフレーズを誰が使うだろうか。

たとえば、「ああ泉州堺の人だ。まるで『男はつらいよ』で太宰久雄さん扮するタコ社長が、泉州弁に吹き替えて喋っているようだ』なのだが、太宰久雄さんの泉州弁と云うのを想像できるだろうか。

「メイドイン堺」である。堺で造られた、ではないのである。「タコ社長の泉州弁」である。タコ社長は浅草の人であって、どうやれば泉州弁を喋るのか想像もつかないが、それでもやっぱり想像してしまう。新潮社の『考える人』でそうなのである。こんな言葉の使い方は江弘毅だけのものだ。

あたしは本文を一挙に読んだ。江弘毅がエネルギーを毛穴から噴出させて書いてる。彼の苦悩が分かる見事なテクストだ。と同時に、「有次」、「堺」、「村上水軍」が、あたしの頭の中で、まるでの夫婦ようにひとつになって行くのがわかったのだ。