桃知商店よりのお知らせ

IT化が進まない理由―官製。

宮城県も旅券電子申請中止 率先導入水の泡?」(河北新報:登録制)

インターネットを使ってパスポート(旅券)を申請できる国の電子申請システムが、費用をかけた割に使われないことを理由に停止されたことを受け、宮城県も昨年10月末でシステムの運用をやめた。国のシステム開発・運用費とは別に、県も独自のシステム開発に1000万円を投じており、国にはしごを外された格好だ。

国は「e-Japan戦略」に沿い、電子自治体の推進を奨励しているものの、パスポートの電子申請に応じたのは、12県にとどまった。各都道府県のシステムは、互換性が無かったことが理由とされるが、模様眺めで導入を見送った自治体もある。


デジタル化(Beeing Digital)の効用は「同じシステムを全員が使う」ということから生じるのであり、私のIT化コンサルテーションでも、最も力を入れる部分は、そこにある。利用者にとっての便益は既存利用者の数に依存する。

そのため、利用者数の少ない間はなかなか普及しないが、利用者数がある閾値(限界質量)を超えると一気に普及するという現象が発生することを利用し、全体としてのIT化を達成しようとするのである。

つまり、みんなが使うから〈私も〉使う。若しくはその逆で、みんなが使わないから〈私も〉使わない、となる。これを頻度依存行動という。

相補均衡

それは経済学の言葉では、ネットワーク外部性である。つまり利用者数が増えれば増えるほど、1利用者の便益が増加し、利用者が増えることによって、ますます利用者が増えるという、正のフィードバックである。

しかしe-Japan戦略のような、国が音頭を取ったデジタル化 Beeing Digitalの動きに失敗が多いのはなぜだろう。CALS/ECもあきらかに失敗だろうし。以下、思い浮かぶままに書いてみたい。

まずIT技術のネットワーク外部性が、そもそも偶有性に満ちているということだろう。正のフィードバックとは骰子一擲でしかないのである――骰子一擲以下で偶然を破棄すべき、しかし偶然は破棄出来ない――絶対は無い。

そしてもうひとつは、国から自治体というスキーム(上位下達・片務性)が、国の財政難と平行して機能しなくなっているということだろう。

普遍経済学の三位一体モデル国は贈与として資金面を肩代わりするかわりにユーザーを増やす(システム的に服従させる)ことが今や出来ない。

自治体に資金負担を求めることは、贈与の関係でなく交換である。つまり国と自治体の関係にさえ、贈与の原理ではなく、交換の原理が働くことで、より偶有性は働きやすく、(贈与の関係にはあった)高度の蓋然性がなくなってしまってる。

Web2.0の文脈で見れば、IT技術はコンシューマー化に向かって進んできた。つまりIT技術はユーザビリティを最優先に進化してきたことでユーザー(コンシューマー)を確保しようとしてきた。そのおかげで(なによりも消費者である)国民の多くは、役人よりは数段IT化が進んでいる。

しかし役所のつくるものは、それとは逆行していると(私は)思う。官製においてはユーザビリティは二の次であり、まずは役所ありきだ。つまり単なる予算消費と御用IT業者の言いなりでしかないように(私は)感じてきた。これは調達側にIT化に対する哲学が欠如しているからだと(私は)思う。

私のIT化の方程式 「IT化=環境×原理」 でいえば、調達側も御用業者も、環境の理解も原理の理解もできてはいない。つまりIT化がなんだかわかっちゃいないのである。

それはある意味当然で、彼らはお役所という閉じた円環の中から出ようとしないからである。閉じた円環に哲学は必要はない。必要なのは慣習だけである。人間が哲学を意識するのは、閉じた円環を開く(ひねる・ツイストする)からである。

つまり哲学無きIT化が続くのであれば、目先を追いかける、刹那的な、予算消費のための、かたちだけのIT化が繰り返されるだけだろう。そして、このような事態もまた再生産されるだけだろう。当然にこれは、CALS/ECに対する私からの悪口でもある。

2007/02/28追記:まさたろうさんが、「いずれにしろ」でこの問題について言及してくださっている。

Comments [2]

No.1

だって「IT=飲むこと」なのに
役人は、飲めないんだよね。

No.2

>悪魔さん

たしかに。
役人と一緒に飲むことが出来ないいなんて、監視社会も強烈になったものです。

悪いことは出来なくなるかもしれませんが、同時に良いこともできなくなります。

つまり停滞。

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