山崎シングルモルト18年山崎シングルモルト18年


さよなら見聞録

午前5時15分起床。浅草はくもり。哀しい話だが盛岡の「見聞録」が店を閉める。この日もその話を聞いてやってきた人達で店は満員だった。思えば2007年5月29日にあたしは初めてこの店に連れて来てもらったのだが、その時初めて「BLACKADDER」を出されて以来、あたしは「BLACKADDER」の虜になったのだ。それは決して飲み易い酒ではなかったが、初めてアイラ島生まれのシングルモルトを呑んだ。それは強烈という言葉そのものであった。

見聞録で飲む酒は、(あたしとは)暦も地図も共有していない酒でしかないのだが、マスター(先生)は、それを軽やかに超越させてみせる。それも盛岡の言葉で。見聞録が、盛岡にあることの楽しさは、マスターの、その地面から生えてきたような言葉にある。その言葉で語るこの遠い国の酒は、暦と地図の違いを超越して、あたしに話しかけてくる。しかしそれは言葉では理解できないものであることでさらに楽しいのだ。とにかくも(あたしには)なんだかわからないものなのである。それは脳みそで理解しても無駄だ、というわからなさなのである。
(from http://www.momoti.com/blog2/2008/08/longrow.php

その後10年にわたり、毎年必ず連れて来てもらっていた。あたしのウイスキーの知識は殆ど「見聞録」で学んだものであり、それは何処へ云っても通用している(たぶん)。その上、家で今呑んでいる「LAPHROAIG」もマスターから教わったアイラ島の生まれのシングルモルトだ。あたしの50代はこの店と共にあったと云ってもいいだろうが、脳梗塞で倒れてから暫くは呑めなかった遠方の強い酒が、今では(以前ほどではないにせよ)呑めるようになった。

しかし、せっかく呑めるようになったにも関わらず店が閉まってしまう。聞けばマスター夫婦も70歳になるのだという。あーそうなのだ、何時までも店ある、というのは人間社会においてはあり得ないことなのである。ただ店があるとすれば跡継ぎが育った場合だけで、それも今では無理なことなのだろう。この夜は向井田さんが準備してくれた「山崎シングルモルト18年」で最後の「見聞録」を楽しんだのだ。マスター夫婦には、どうぞ元気でいてください、と別れを告げたのだ。

マスター夫妻

見聞録
岩手県盛岡市南大通2丁目6ー12