弁天のにしんそば
最初はニシンの姿がない。どんぶりの底にそっとおいてあるのである。
昨日の昼は、弁天でにしんそばを手繰った(850円)。 にしんそばは、身欠きにしんを使った京都名物だ――幕末に誕生したらしい。にしんそばといって思い出すのは岐阜県大垣市の酒井亭だな。あれはうまかった。――岐阜桃塾(2002年)の時には足繁く通ったものだが、懐かしい思い出になってしまったが、是非また行きたく思う。
弁天のにしんそばはちょっとだけ変わっていて、テーブルに運ばれてきたそれにはニシンの姿は見えないのである。それでニシンは何処に、といえば、それば丼の奥深くそばの下に静かに横たわっている。
あたしは、このニシンの姿の無いそばのカタチがとても好きで、最初はこの京風の透明な汁のまま(弁天ではこの蕎麦だけ汁が違う)、上部だけ1/4程たべてしまう――それはとてもうまいのだよ。
それからおもむろに丼の底からニシンを引っ張り出すと、ニシンの甘辛い煮汁が混ざりだして、醤油色の混沌が出現し始める。それを混ぜるのではなく、和えて混濁の段階を楽しむように食べる――だから底が一番濃いのだが、それもまたうまい。
薬味(ねぎ)は別になっているが、柚子が最初からひとかけらはいって、食べている途中に、ふいに柚子の香りが口の中に広がるのは、いつもの弁天流である。
弁天のにしんそば
6月30日のお昼はにしんせいろにした(900円)。せいろもまたいい。
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